「ケルベロス第五の首」に関する枝葉末節メモ
邦訳が出た一年ほど前に途中までメモしたものです。とことん枝葉末節に拘ってみようとの趣旨なので、木を見て森を見ていません。
"A Story", by John V. Marsch - 『ある物語』ジョン・V・マーシュ作
- P.103 "A Story", by John V. Marsch
- まず誰が書いた「物語」なのか。マーシュについてフル・ネームが出てくるのはこの部分だけなので、これが本当に地球から来た人類学者の名前なのか不明。後で出てくるように「ジョン」はアボの男の名前であり、"V" は数字の "5" つまり「第五号」をあらわすので、作者はアボであり「第五号」でもあるとも取れる。また "Marsch" は「沼地」"marsh" に通じる。
- P.104 十字架の聖ヨハネ
- ヨハネという名の人物はキリスト教関係にやたら多いが、これはスペインのカルメル会修道院に属したJuan de la Cruz (1542-1591) を指す。本名はJuan de Yepes。十字架の聖ヨハネは聖テレサとともに跣足カルメル会を創設し、また神秘主義詩人、教会博士としても知られている。主な著作は「カルメル山登攀」「暗夜」など。
- なぜこの詩が『ある物語』冒頭に置かれているのか。サント・クロアは「聖十字架」なので何か意味があるのは間違いない(ちなみにサント・アンヌは聖母マリアの母親の聖アンナ)が、よくわからない。ちなみに「聖十字架」の出てくる文化人類学SFというとダン・シモンズ作「ハイペリオン」の「司祭の物語」を思い出す。考えてみるとあちらの方がこの十字架の聖ヨハネの詩の内容をストレートに描いているようだ。
- ちょっとだけ調べてみてわかったのは、1577年、十字架の聖ヨハネは宗教的・政治的な争いから投獄され、九ヶ月間にわたってほとんど身動きも取れないような牢に入れられていたこと。この間に神秘的な啓示を受けて「カルメル山登攀」等の構想が浮かんだらしい。そうすると『ある物語』は獄中でV.R.T.=マーシュが書いたものということになる。これはまあ穏当なところだろうが、カトリック信者であるウルフが単なる思いつきでこのような聖人を引用するわけもないだろう。十字架の聖ヨハネの神秘主義思想とアボリジニの神話との間に何か関連があるのだろうか。どちらも知識がないのでよくわからない。あと聖ヨハネもしくは聖十字架と聖アンナの関連も。
- P.105 一年が長い<石転びの国>。
- 原住民が書いたものなら「一年が長い」とはしないのでないか。
- P.105 それは「男」を意味する言葉で、すべての男の子は「ジョン」と名付けられる。
- 「ジョン」は匿名をあらわすものか。なおジョンあるいはヨハネはもとはヘブライ語で「神は慈悲深くあった」の意。
- P.105 二人目の子は普通のようには生まれなかった。
- 二人の子供は鏡像関係にある。
- P.106 絹糸のように細い黒髪が、頭の後ろに黒い後光となって広がった。
- 母親である<揺れる杉の枝>の髪は黒髪。「後光」は<揺れる杉の枝>が聖母であることを示すか。
- P.106 すくいとって娘の足にかけた。
- 素直に読むなら寒さで凍える娘の足を暖めたのだろうが、なにやら洗礼の秘蹟を思わせる。
- P.106 そのように、わたしが生まれたとき、わたしの母もやった。そのように、おまえも自分の娘のためにやるだろう。
- 父親の存在が欠けている。これは聖アンナが<無原罪の御宿り>で聖母マリアを受胎し、さらに聖母マリアがイエスを処女懐胎したことを意味するようだ。これはクローニングの主題にも繋がる。
- P.106 初子は死ぬ――か残らぬ。
- "The first birth kills--or none." これは意味がわからない。
- P.107 そこで揺れる杉の枝の母は流れに呑まれ、東風はその手から奪われた。
- ここでは東風に何が起きたか意図的にわからなく書いている。
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