<蛙>と呼ばれた少年の物語

Last Updated:

06/30/2002




「<蛙>と呼ばれた少年の物語」―「茶色の本」より

「男の子と大きな友達と双子と狼が出てくる話」をしてくれとのセヴェリアン少年の頼みに応じて、セヴェリアンが「茶色の本」の中で見つける物語です。

昔々、ウールスの岸辺の彼方のある山の上に、<初夏>という名の美しい女が住んでいた。彼女はその国の女王だったが、王は強くて、執念深い男だった。そして、女王は王に対して嫉妬深かったので、王も彼女に対しては嫉妬深く、彼女の愛人と思う男はすべて殺してしまった。--「警士の剣」第19章

<初夏>は庭園に咲く美しい花の汁で身ごもり、<春風>という名の王子を産みます。<春風>は成長すると、父親の軍隊の将軍となり、ウールスまでやって来て、そこで<春の小鳥>という王女と出会い、双子が生まれます。<春の小鳥>は父親の王がなくなった後、伯父により処女司祭とされていたので、双子は伯父の目を逃れるため柳の籠に入れて小川に流されます。

二人の貧しい姉妹が双子の籠を見つけ、それぞれ家に連れて帰り<蛙>と<魚>と名づけます。一年後、<蛙>の育て親は剣歯虎の<殺戮者>に殺されますが、<蛙>は狼夫婦に引き取られます。<殺戮者>は<狼の元老会>でメシアの息子=人間の子供である<蛙>を自分に引き渡すよう求めますが、<裸の者>の弁護と<黒い殺し屋>の黄金により、<元老会>は<殺戮者>の要求を退けます。

彼は<狼の元老会>に火を持ちこんでいった。「ここに<赤い花>がある。その名において、わたしが支配する」そして、誰も反対せずにいると、彼は狼を統率して、自分の王国の臣民にした。そしてまもなく、人間も狼と同様に彼のもとに馳せ参じた。彼はまだほんの子供だったけれども、周囲の人間よりも常に背が高く見えた。なぜなら、彼は<初夏>の血を引いていたからである。--「警士の剣」第19章

やがて<蛙>は、牧夫になっている兄弟の<魚>を見つけ、老齢の王のもとに赴いて遺産を要求します。<魚>は都市と農地を、<蛙>は山岳地帯の荒地を得てそれぞれ領地を支配することになります。<蛙>は城壁を築く目印として一筋の畝を掘りますが、<魚>がこれを馬鹿にして跳び越えたため、これを殺し、かつて<裸の者>に教えられた通りに畝に埋めます。

この物語の中には古今の数々の物語からの引用がなされています。まずはっきりしているのは、ローマの建国神話のロムルスとレムスの物語です。二人は後のローマの地の近くのアルバロンガの王女の子供です。王女は父の死後に王位を狙う叔父によって巫女にされますが、軍神マルスに見初められてロムルスとレムスの双子を産みます。怒った叔父王は双子をテヴェレ川に流しますが、狼が双子を助け、乳を飲ませて育てます。その後羊飼いが幼子を育て、成長した二人は羊飼いたちを率いてローマの地に都を築きます。ロムルスが勢力圏の境界に掘った溝をレムスが跳び越えたため、怒ったロムルスはレムスを殺害します。こうしてロムルスはローマの最初の王になり、やがて近隣諸国を従える強大な帝国の祖となります。

双子の父親のマルス(Mars)は三月(March)、マルスの母親のユノ(Juno)は六月(June)、つまり<春風>と<初夏>に相当します。<春風>と<初夏>の血を引いた<蛙>は、やがてロムルスが近隣諸国を従えてローマの覇権を築いていったように、おそらくは人類の最初の星間帝国を築いたのかもしれません。

一方、<蛙>の育て親の樵夫婦が<殺戮者>に殺され、<蛙>が狼夫婦に引き取られて育てられることになるくだりは、ほとんど、ラドヤード・キプリング(Rudyard Kipling)の「ジャングル・ブック」(The Jungle Book)冒頭部分そのままです。

<蛙>と呼ばれた少年の物語ローマ神話ジャングル・ブック
初夏ユノ(Juno 
春風マルス(Mars 
森の小鳥レア・シルウィア(Rhea Sylvia 
ロムルス(Romulus<蛙>のモウグリ(Mowgli
レムス(Remus 
雄狼 雄狼
雌狼 雌狼
殺戮者 虎のシーア=カーン(Shere Khan
笑い屋 ジャッカルのタバキー(Tabaqui
元老の長 狼の長のアケイラ(Akela
裸の者 熊のバールー(Baloo
黒い殺し屋 黒豹のバギーラ(Bagheera

このように「狼に育てられた少年」という共通のモチーフをもとに、ここでは二つの有名な物語が組み合わせられています。一方、<蛙>の教師であった<裸の者>は<野蛮な者>すなわち<スクワント>(Squanto)と呼ばれますが、これはアメリカ大陸に移住してきたピルグリムファーザーズが飢えに苦しんでいた時に、トウモロコシの栽培法を教えて助けたポータクセット族のインディアンの名前です。

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