Last Updated:
09/03/2005
「木の葉の帝国と花の帝国」とは、「ウールスと天空の驚異」通称「茶色の本」の中で「緑色と黄色の帝国の物語」として紹介されているものです。"Empires of Foliage and Flower: A Tale From the Book of the Wonders of Urth and Sky", 1987, Cheap Street)という稀覯本、および Bryan Cholfin 編の "The Best of Crank!" というアンソロジー、およびウルフの最新短編集 "Starwater Strains: New Science Fiction Stories" に収録されています。
昔ウールスがまだ若く人類が戦いを崇拝するほど愚かだったころ、タイム(Thyme)という名の賢人がいた。タイムは常に世界を旅していたが、西に行けば行くほど彼は年老い、東に向かうと若くなるのだった。
ある時タイムは道端で一人の少女がエンドウマメ(pease)で遊んでいるのを見かけた。何で遊んでいるのかとの問いかけに子供は、エンドウマメを人々になぞらえて、戦争とその後の平和(peace)で遊んでいると答えた。タイムは少女を連れて旅に出ることにした。二人が西に向かうにつれ、少女はみるみる成長していった。やがて二人はヴェール(Vert)という都に着いた。それは千年もの間戦いを続ける二つの国の一方、東の緑色の国の首都だった。
東の国の王子はパティジテス(Patizithes)という名だった。王子がたまたま城壁の視察をしているところに、タイムとすっかり美しい娘に成長した少女がやってきた。王子は娘に一目ぼれし、身分を隠して二人に近づいた。娘は王子に、この国の皇帝に西の黄色の国と和平を結ぶよう話すつもりだと言った。王子はしぶしぶながら面会を取りもつ約束をし、二人を都の外にある自分の別邸に連れて行った。
その夜王子は娘を自分のものにした。朝になり三人は皇帝の宮殿に向かったが、恋人たちはほとんど口をきかなかった。皇帝の前で娘は戦争の悲惨さを訴え、黄色の国と和平を結ぶよう請うたが、皇帝の心を動かすことは適わなかった。意気消沈して皇帝の前から退出する二人に、一人の将軍が話しかけ、どうすれば戦争に勝利することができるかを尋ねた。タイムの答えは、緑色の国の軍隊が黄色の服を身にまとえば、というものだった。
タイムと、王子に対する愛に傷ついた娘の二人は緑色の国を出て、さらに西の黄色の国に向かった。娘は王子の子を身ごもっており、旅の途中で男の赤ん坊を出産した。二つの国の兵士たちが戦う戦場をかいくぐって西に進むうちに、娘と王子の子供バルス(Barrus)はどんどん成長し、西の国の首都ザント(Zant)につく頃には若者になっていた。娘もまた中年の女になっていた。
ザントの都で三人が宿屋を探していると、貧弱な小男が話しかけ、自分が時々泊まっている下宿屋の部屋を提供すると言った。小男はタイムから双方の軍隊の様子を熱心に聞きたがった。タイムはこの男が黄色の帝国の皇帝その人だと見破った。皇帝はバルスの父親が敵国の王子だと知ると、自分の手元に置いておこうと言った。これが緑色の国の将軍への答えの意味なのかと問う娘にタイムは、答えの一部だと言った。
タイムと娘は再び東へと戻っていった。タイムの髭は白から灰色に戻り、娘もまたどんどん若返っていった。ある朝、かつての戦場で二人は、かつて緑色軍の兵士であったものの黄色い骸骨と、かつて黄色軍の兵士であったものの緑色に苔むした骨を見つけた。タイムは自分は二つの軍勢の制服の色を変えたが、戦いをやめることができるのは彼らだけなのだと言った。
やがて二人はタイムと少女が最初に出会った場所まで帰ってきた。娘はもとの幼い少女の姿に戻っていた。二人は別れを告げ、少女はまたエンドウマメで遊び始めたところに、少女の兄のバルスが妹を迎えにやって来た。-- "Empires of Foliage and Flower", Starwater Strains: New Science Fiction Stories, pp.246-271
時間の流れの中を自由に歩き回るタイムは<時の回廊>を歩くもののようです。また平民に身をやつした黄色の国の皇帝は、<共和国>の独裁者を思わせます。