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06/08/2002
The Shadow of the Torturer (1980, Timescape Books)
「拷問者の影」 岡部宏之訳、早川書房、昭和61年、ハヤカワ文庫SF689
世界幻想文学大賞受賞、イギリスSF協会賞受賞、ネビュラ賞候補、ローカス賞ファンタジー部門候補
遥かな未来、惑星ウールスの南半球を統治する強大な<共和国>。その秩序に逆らう者は誰であれ<拷問者組合>によって容赦ない刑罰を施される掟になっていた。組合の徒弟セヴェリアンは、かつて、はからずも伝説的反逆者ヴォダルスの生命を救い、今またその一味の美女の自殺に手を貸すという大罪を犯して、組合を追放されてしまう。名剣テルミヌス・エストを携え、壮大な冒険に旅立ったセヴェリアンを待つものは? 名匠ウルフが華麗かつエキゾティックな世界を見事に創りあげ、全SF・ファンタジイ界を熱狂させた傑作四部作<新しい太陽の書>は、ここにその幕を開ける!--「拷問者の影」表紙裏紹介文より
「真理と悔悟の探求者の結社」通称「拷問者組合」の徒弟セヴェリアンは、徒弟仲間たちと河で水浴びをして帰る途中、反逆者ヴォダルスたちが墓地で民兵と争うところに出くわした。思わずヴォダルスを助けたセヴェリアンにヴォダルスは一枚のコインを与えて立ち去った。こうしてセヴェリアンは独裁者の命令に絶対服従するのがさだめの拷問者でありながら、同時に反逆者への共感を抱くようになり、その後のセヴェリアンの運命は大きく変化していくのだった。
冬の終わりの聖キャサリンの祭の日、セヴェリアンは徒弟頭に昇格した。ある高貴な囚人を慰めるために<図書館>に使いに出されたセヴェリアンは、そこで盲目の司書ウルタン師に会い、ウールスのさまざまな伝説を伝える<茶色の本>を受け取った。本を所望した囚人は、美しい女城主セクラの方だった。セクラの方は、妹のセアの方とともに<共和国>の独裁者に反逆するヴォダルスに与した疑いで捕えられたのだった。セクラの方は孤独を癒すためにセヴェリアンを話し相手として独房によこすよう求めた。さまざまな話をし、また<茶色の本>の不思議な物語について語り合ううちに、高貴な囚われ人セクラと卑しい拷問者の徒弟セヴェリアンは深く愛し合うようになっていった。
セクラへの処刑命令が届かぬまま一年が経ち、セヴェリアンは職人に昇進した。セクラももはや自分が処刑されることはないと考え出していたところに、命令書が届いた。拷問に責め苛まれるセクラの姿を見かねたセヴェリアンが手渡したナイフにより、セクラは自害して果てた。裏切り者としてセヴェリアンは捕えられ、はるか北のスラックスの地に追放されることとなった。組合の師匠パリーモン師はセヴェリアンに餞別として名剣テルミヌス・エストを与えた。
<城塞>を出て<共和国>の首都ネッソスの町に入ったセヴェリアンは、宿屋で巨人バルダンダーズと小男タロス博士の奇妙な二人連れに出会った。芝居をしながら旅をする二人は、セヴェリアンにも仲間に加わるように言った。二人と別れたセヴェリアンはマントを買うために一軒の店に立ち寄った。店の主人はセヴェリアンの剣の価値をみとめて買取りを申し入れたが、セヴェリアンは拒絶した。そこに仮面を着けた一人の騎兵隊長があらわれ、セヴェリアンに決闘を申し込んだ。わけがわからないまま、セヴェリアンは店の主人の妹アギアとともに、決闘に用いられるアヴァーンの花を手に入れるため<植物園>に向かうことになった。<植物園>への途中、二人を乗せた馬車はあやまってペルリーヌ尼僧団の<鉤爪の寺院>に突っ込んでしまった。
貴重な<鉤爪>を盗んだのではとの疑念を何とか晴らして、二人は目的の<植物園>に着いた。独裁者の経営する<植物園>は不思議な建物だった。その内部は外側よりもずっと大きいようで、また時間も奇妙に捻じ曲がっていた。<ジャングルの園>と呼ばれる場所では、セヴェリアンは(おそらく)現代の南アフリカと思われる場所の住民と出会った。アヴァーンの花が生えているのは<果てしない眠りの園>と呼ばれる場所だった。<果てしない眠りの園>の中の暗い湖で、セヴェリアンは溺れかけた娘を助けた。ドルカスという名前以外いっさいの記憶を失った娘を連れに加え、ようやくセヴェリアンはアヴァーンの生えた岸辺に辿り着き、決闘用に一本の花を折り取った。
セヴェリアンはアギアとドルカスとともに決闘の場である<血染めが原>に着いた。セヴェリアンと騎兵隊長はアヴァーンの毒の葉を互いに投げて闘った。騎兵隊長の投げた葉を胸に受けセヴェリアンは一旦は意識を失うが、すぐに回復した。騎兵隊長は恐れおののいて観客をアヴァーンで打ち倒しながら逃げ出そうとした。セヴェリアンは再び意識を失った。
目覚めるとセヴェリアンはドルカスとともに避病院にいた。騎兵隊長は実はアギアの兄アギルスの変装で、二人はセヴェリアンのテルミヌス・エストを騙し取るために謀ったのだった。アギルスは逃げようとした際に観客を殺害した罪で捕えられ、セヴェリアン自身の手で処刑されることになった。避病院を出てドルカスとともに旅立ったセヴェリアンは、自分の図嚢の中にペルリーヌ尼僧団の聖宝<調停者の鉤爪>があるのを見つけた。その時夜空には炎上して舞い上がるペルリーヌ尼僧団の大寺院の不思議な光景が見えた。
偶然セヴェリアンとドルカスは、タロス博士と巨人バルダンダーズ、それにジョレンタという名の美女が芝居を始めようとしているところに行きあい、即興で芝居に加わることになった。翌朝一行は、ネッソスから北に向かうため巨大な<壁>の門に向かった。