ultan.net: 作品紹介

Last Updated:

06/30/2001




Galen Strickland 氏による作品紹介(その5)

1981年4月、第二部である「調停者の鉤爪」の出版後まもなく、小規模なSF評論専門誌ローカスは、ニュース欄で、ウルフが第三部の「警士の剣」を出版社に渡し、現在第四部で最終巻となる "The Castle of the Otter" (カワウソの城)の推敲に精を出していることを伝える。もちろんこのタイトルは誤報で、翌月号で訂正された(しかし訂正後もやはりタイトルは誤って "The Castle of the Autarch" と紹介された)。言葉の魔術師であるウルフは、当初伝えられたタイトルを面白がった。ウルフはどんどん長くなるプロットを組織立ててコントロールするため、当然詳細なノートやアウトラインを書きとめていた。読者から著作法や物語の創造に関する背景を知りたがる要望が多く寄せられたため、ウルフはセヴェリアンの物語の創造と進化に関するエッセー集を発表することにした。"The Castle of the Otter: A Book About the Book of the New Sun" は1982年に完成したが、出版されたのは第四部の「独裁者の城塞」が発表された翌年だった。

中でももっとも興味深いエッセーは、作品中の難解な古語(多くの読者はこれらの単語をウルフの創作だと思った)の用語集である "Words Weird and Wonderful" と、"Onomastics - The Study of Names" である。また作品執筆中の出来事も細かく記述されている。代理人のヴァージニア・キッド、編集者のデイヴィッド・G・ハートウェルとともに、ウルフは、第一作の出版が始まる前に全四部を完成させており、売上げを極大化するために発表スケジュールをコントロールした、と非難されたことがある。ウルフはこれに対し、全四巻の第二稿を書き上げてから第一部の最終推敲をおこなったとしている。これは複雑なプロットを、満足がいくまで磨き上げて、完璧な作品にする必要性によるものだった。この困難な作業の過程で驚くべきは、ウルフの「作品を完成させる」能力に関して、キッドとハートウェルの両方が全幅の信頼を置いていたことだろう。四部作と短編集に関する契約が締結されたのは、代理人、編集者、出版社の誰も、対象作品の現物を一語たりとも目にする前のことだったのだ。

私がウルフの創造した傑作の偉大さ、荘厳さのかけらなりとも伝えることができれば、と思う。しかし読者が、ウルフの作品が完全に独創的なものだとの印象を受けたとしたら、私はあまりに不注意だということになろう。抜け目ない読者は、ウルフが自らの未来的な話法に取り込んで変化させた、他の作家やアイデアのこだまに気がつくだとう。ここで私がいくつかのことを書き記しても作品の効果を損なうことにはならないだろう。セヴェリアンは苦難の果てに共和国の支配者である、独裁者の地位につく。また彼はこの運命をずっと以前から認識していたように思われる。この作品を四度読み、また補遺や手に入る限りの書評、論文に目を通した結果、セヴェリアンはこの結末に関して数多くのヒントを書き記していると確信している。もし私が十分知的なら最初から気がついてしかるべきだったのだが。

カトリック信仰はウルフの実生活と創作活動の両方に大きな影響を与えている。セヴェリアンはさまざまな意味でキリストに類似した姿と解釈され、玉座の権力と栄光への帰還は、先人によって語られている。しかしながら物語中の「新しい太陽」は単に比喩的、宗教的な概念ではなく、物理的存在の顕現でもある。それはウールスへの接近が大激変と、それを生きのびた人々と、ゆっくり死につつある太陽の両方に再生をもたらす白い小さな天体である。第四部の最後でセヴェリアンは苦難の旅の準備をしている。すばらしい力を手に入れ、それとともに「新しい太陽のウールス」に戻るための宇宙旅行である。

時間だけが事実かどうか証明できるが、ウルフは「新しい太陽の書」で既に自身の最高傑作、常にキャリアの最高峰とみなされる作品を書いてしまったのかもしれない。この作品を基準にすると、80年代から90年代にかけての他の長編作品はやや見劣りがする。それらは単にとても良い作品、といったところであり、ジャンルの他の作品と比較可能なレベルのものだ。「市民ケーン」と「カサブランカ」に例えてみるといいかもしれない。前者は全世界的に賞賛され、過去最高の映画と称えられるのに比べ、後者は「単に」ハリウッドで製作された映画の中でもっとも楽しく、愛すべき作品とみなされている。

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