ultan.net: 登場人物

Last Updated:

10/20/2002




サイリアカ Cyriaca

スラックスの近郊に住む大郷士の妻。セヴェリアンはスラックスの執政官であるアブディーススに招かれた仮面舞踏音楽会で、ペルリーヌの尼僧の扮装をしたサイリアカに出会います。サイリアカは結婚前にはペルリーヌ尼僧団に所属していました。

「私はあの人たちに育てられたのです。私は聖職志願者だったんですよ。わたしたちは大陸をあちらこちら旅行しました。そして、旅をしながら気や花を見ていくだけで、素晴らしい植物の勉強ができました」--「警士の剣」第5章

警士の扮装をしたセヴェリアンを見て、サイリアカは自分を処刑しにきたものと思い(事実そうなのですが)、気を失いますが、その後セヴェリアンにウールスの歴史にかかわる極めて重大な物語をきかせます。その物語とは、古文書の収集家であるサイリアカの叔父が、子供の頃サイリアカにきかせた物語です。叔父は古文書を求めてはるかネッソスまで旅をしました。

「とにかくネッソスの、たいていの人が訪れる町よりもずっと南の方に――あの大きい河の、もうとうに町が終わってしまったとたいていの人が考えているほど下流に、大昔の要塞が立っているの。たぶん、独裁者自身以外のだれも――彼の精神が千人もの後継者の中に生きつづけますように――それをとうの昔に忘れてしまって、幽霊が住んでいると思われているのよ。それはギョルを見下ろす丘の上に立っていて、叔父の話では、地下墳墓のある野原を見下ろしているだけで、何者も守っていないんですって」--「警士の剣」第6章

サイリアカの語る昔の星間帝国と機械の物語は、衰えゆく太陽の下で暮らすウールスの人々の歴史について多くを語ってくれます。詳細については、「ウールスの歴史」の「最初の星間帝国とその崩壊」をご覧ください。

彼女は言葉を切り、手を動かして、目の前の空中に丘と要塞の格好を描いて見せた。私は思った――彼女はこの話を何度もしているな、それも子供たちに、と。それで改めて、彼女が子供を持っている年齢に充分に達していることや、その子供たちは、この話や、そのほかのお伽噺を何度も聞いているくらいの年齢の子供たちだと意識した。彼女の滑らかで官能的な顔には、年齢のしるしは表われていなかった。しかし、ドルカスの中ではまだあれほど明るく燃えていた、またジョレンタの周囲にさえもその清らかな神々しい光を投げかけていた、そして、セクラの力の陰にあれほど強く明るく輝き、彼女の妹のセアが墓の横でヴォダルスのピストルを受け取った時に、共同墓地の霧につつまれた小道を照らしていた、あの青春の灯火は、彼女の内部ではずっと昔に消えてしまっており、炎の香りすらとどめていなかった。私は彼女を哀れに思った。--「警士の剣」第6章

かつては美しかったサイリアカから青春の輝きが消え失せ、それでも彼女はそれを認めまいとしてさまざまな男たちと関係を持ちつづけます。これだけならまあよくある話なのですが、どうやらこの部分では、サイリアカの内部で消えた炎とは、死にゆくウールスの太陽を象徴しているようです。サイリアカの中に<新しい太陽>を復活させることを意図したのかどうかは知りませんが、とにかくいつもながらにセヴェリアンは、小難しい話をしながらサイリアカと関係を持ちます。

わたしは話している彼女の衣服を次第に脱がせ、乳房にキスをしていた。しかし、こういった。

「あなたがいう、それらの思想のすべては、独裁者にしまいこまれた時に、世界の外に出ていってしまったのではないかなあ?わたしの耳には入っていないのだろうか?」

「出てはいかなかったのよ。なぜなら、それらは長い間、手から手に伝えられて、すべての人間の血の中に入ってしまったから。それに、監視人は時々それらを世間に送り出すことがあったというのよ。それらは最後には必ず監視人のもとに送り返されて、またもとの暗闇の底に沈むのだけれど、その前に人間に読まれるのよ。読み手が一人か大勢かは別としてね」

「すばらしい物語ですね」わたしはいった。「たぶん、わたしのほうがあなたよりも知識が多いと思うけれど、この話を聞いたのは初めてです」衣服を剥いでみると、彼女の足は長く、太股からほっそりしたくるぶしにかけて、絹のクッションのようになめらかに細くなっており、体ぜんたいがまるで快楽のために形成されているように見えた。彼女の指が、わたしのマントの肩の止め金に触れた。「これを脱ぐ必要がある?」彼女は尋ねた。「これで、わたしたちを隠すことができるかしら?」

「できます」わたしは答えた。--「警士の剣」第6章

ここで<監視人>によって送り出される<思想>とは、ウルタン師によってセヴェリアンもとに送り出された<茶色の本>のことです。「たぶん、わたしのほうがあなたよりも知識が多いと思うけれど、この話を聞いたのは初めてです」という部分は原文では、"I think that perhaps I know more of it than you, but I had never heard it before." ですから、「たぶんそのこと(茶色の本のこと)については自分の方がよく知っているけれど、誰かがそれについて語るのをきいたのは初めてです」とした方がわかりやすいと思います。

わたしは、サイリアカの与えてくれた快楽に溺れそうになった。わたしは彼女を、かつてセクラを愛したようには愛さず、ドルカスを愛していたようにさえも愛さなかった。また、彼女はかつてのジョレンタのように美しくなかったけれども、わたしは彼女に対して優しい気持ちになった。その原因の一つは、人を落ち着かない気分にするあのワインだった。そして彼女は、わたしが<剣舞の塔>のぼろを着た少年であった頃、あの発かれた墓のそばでセアの卵形の顔を見る前に、夢に描いていたようなタイプの女性であった。それに彼女は、この三人のだれよりも、はるかによく愛の技術を心得ていた。

われわれは起き上がると、体を洗いに水の流れている銀の水盤のところにいった。そこには、われわれと同じように愛しあっている二人の女がいて、われわれをじろじろ見て笑った。だが、わたしが女でも容赦しないぞという態度を見せると、悲鳴をあげて逃げていった。--「警士の剣」第7章

ところで仮面舞踏音楽会が開かれている執政官の屋敷というのは、ここの部分を読むまではなんとなく中世ヨーロッパ風の建物を想像していたのですが、たとえ貴族は挨拶代わりにセックスするのが当たり前のフランスのブルボン朝時代の宮廷でも、パーティーをやっている屋敷の中でマントに隠れてとはいえ男女が性交をして、その後屋敷内で人目を忍ばずに体を洗いあうというのは違和感がありますね。ひょっとするともっとずっとエキゾチックな情景を思い描くべきなんでしょうか(まあ何万年も未来の話なので当たり前ですが)。そうすると古代ローマの、例えば映画の「カリギュラ」とかが頭に浮かぶんですが、これはちょっと想像力貧困すぎですか?

サイリアカを抱いた後、セヴェリアンは執政官により、自分が仮面舞踏音楽会に呼ばれたのは、まさにサイリアカを処刑するためだったことをきかされます。

サイリアカの顔に恐怖の色が見えた。そして、唯一の希望は、自分に対してわたしがいくらかでも愛情を持ちつづけることだと考えていることがわかった。それならば、彼女に希望はないと、わたしは思った。なぜなら、わたしは何も感じなかったからである。--「警士の剣」第12章

それにしてもセヴェリアンは、サイリアカの肉体とテクニックに溺れておきながら、愛情もなにも感じていないと言い切るのはちょっと冷たすぎやしませんか?もちろんサイリアカの方でも、自分の若さと美しさを確認するためだけに男たちと寝ており、セヴェリアンをもある意味利用したのかもしれませんが、でもそんなのよくある話だし、どっちもどっちですね。特にサイリアカが、大勢の男を愛したがゆえに殺されることになったのに、その処刑人たるセヴェリアンが処刑前に味見をしてどうするのかと。あんたには倫理感というものが無いのかと(いや、無いような気もしますが)。

まあ結局はセヴェリアンはサイリアカを逃がしてやるわけですし、それによってセヴェリアンは自分自身の唯一の拠り所である組合を二度までも裏切ることになり、あてどない流浪の身になるわけですが、それにしたってサイリアカを逃がす理由が次の通りです。

われわれはそれぞれの心の最も汚れた独房の中に、価値の下落した現行通貨で過去の負債を懸命に支払う、一つのカウンターを持っている。そのカウンターで、わたしはセクラの命の代償としてサイリアカの命を差し出した。--「警士の剣」第12章

もちろんかつて愛するセクラを救えなかった罪滅ぼしにサイリアカを助ける、というので一応筋は通っているのですが、なにやら釈然としないのです。その理由はというと、物語のこのあたり「警士の剣」の前半部分でのサイリアカに対しても、あるいは誰よりも愛しているはずのドルカスとの別れの部分や、キャスドーとの出会いの部分でも、セヴェリアンは妙に人間味を欠いているような気がするのです。この印象はキャスドーが殺されてセヴェリアン少年と二人だけになるまで続きます。そうしてみると、あるいはこれは意図的なものかもしれないという気もします。例えば「警士の剣」の前半ではセヴェリアンは自身情動的に死にかけていて、それが親しい人との別れや、大事にしていた物を失うことによって、自身が死の淵から復活する過程が描かれているのかもしれません。ちょっと深読みしすぎかもしれませんが。

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