Last Updated:
07/21/2002
共和国の南の群島のいちばん東にあるグレイシーズ島に住んでいた漁師。オリサイアの避病院でセヴェリアンたちに「二人のアザラシ取り」の物語をきかせるハルヴァードの叔父。両親の遺産を受け継ぎ、ともに独身の兄弟のアンスカールとともにアザラシ漁に出ますが、ちょっとしたことからアンスカールを殺害します。
「彼は大島のある女を愛していたのだといった。おれはその女に一度も会っていない。しかし、彼の話では、ネノックという名前だったそうだ。金髪碧眼で、彼より若かった。だが、だれも彼女と結婚しようとしなかった。なぜなら、彼女は前年の冬に死んだある男の子供を身ごもっていたからだ。船の中で、彼はアンスカールに彼女を家に連れてきたいといったのだそうだ。すると、アンスカールは彼を "誓い破り" と呼んだ。ガンダルフ叔父は強かった。彼はアンスカールをつかんで船の外に投げ飛ばした。それから命綱を両手に巻きつけ、縫い物をする女が糸を切るように、綱を切った」--「独裁者の城塞」第7章
これだけでは、厳しい南極地方を舞台としたエキゾチックな物語に見えますが、その後セヴェリアンのもとにペルリーヌの尼僧が訪れ、ガンダルフの物語について議論をします。
「ガンダルフにはほかの男たちと同様に、権威を持ちたいという本能がありました。それが適切に成長すれば、家族を作るようになります――さらに女たちも、同様の本能を持っています。ガンダルフの場合は、その本能が長いこと抑圧されていました。ここにいる大勢の兵士たちも同様です。将校たちは支配権を持っています。支配権を持たぬ兵士たちは、苦しみます。そして、兵士たちはなぜ自分が苦しまなければならないかわかりません。(中略)あなたは自分に何か特殊な権威があると考えていますか?」
「私は<真理と悔悟の探求者>の職人です。しかし、この地位は何の権威も伴っていません。われわれ組合の者は、裁判官の意志を実行するだけです」(中略)
「それ以外に特殊な権威を持っているとは思わないのですか?」
わたしはうなずいた。
「あなたは<調停者の鉤爪>を持っていると信じていると、メリトがいいました。そして、オオヤマネコかカラカラ鳥から取ったような、小さな黒い鉤爪を彼に見せて、それを使って大勢の死者を蘇らせたといったそうですね」--「独裁者の城塞」第8章
この言葉をきいてセヴェリアンは、遂に<調停者の鉤爪>をペルリーヌ尼僧団に返す時が来たかと観念しますが、尼僧は意外にもセヴェリアンの言う<調停者の鉤爪>の秘蹟は、「権威を持ちたい」というセヴェリアンの心が生み出した妄想だと考えます。一方、拷問者であることが「何の権威も伴っていません」というセヴェリアンの言葉は、拷問者のもっとも重要な特質をあらわしています。それと同時にこの部分は、拷問者が、南の島の貧しいアザラシ取りや、抑圧されて苦しむ兵士たち、その他の大勢の人々の代表であることを示しているように思われます。実際にはただの海辺の植物の棘にすぎない<鉤爪>が死者を蘇生させる力の源泉となるように、何も権威を持たない、権威に従う以外には何も許されず、ある意味社会の最下層に位置する拷問者が、ゆえにウールスの人々の死命を決する役割を担う、という「新しい太陽の書」全体の主題とも関わっているようです。
なおガンダルフというと「指輪物語」のイスタリ、灰色のガンダルフが思い浮かびますが、あちらは "Gandalf" で微妙にスペルが異なります。もっともウルフはトールキンの大ファンのようなので、なんらかの繋がりはあるかもしれません。
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