ultan.net: 登場人物

Last Updated:

08/24/2002




ジョナス Jonas

ウールスに不時着した宇宙船乗り。セヴェリアンはタロス博士らの一行とともにネッソスの<壁>の<憐れみの門>を通りかかった時にメリーチップに乗った旅人ジョナスに出会います。

見知らぬ男はつぶれた帽子を押し上げた。すると、彼は右手の代わりに、関節のある鋼鉄の装置を着けているのが見えた。「おたくはわたしが望む以上に、よくわたしを理解したね。まるで自分の顔の前に鏡をさし出されたような気分だ。白状するが、わたしはおたくがなぜ刑吏と一緒に旅をしているのか、また、なぜこの絶世の美女が泥の上を歩いているのか、尋ねようと思っていたのだ」

ジョレンタはあぶみ綱を放していった。「見たところ、あんたは貧乏なようだね、おじさん。それに、もう若くもないようだ。わたしのことを尋ねるのは、ちょっと似合わないんじゃないの」

門の暗がりの中でさえも、その見知らぬ男の頬に血が上るのが見えた。彼女がいったことはすべて正しかった。彼の衣服はよれよれで、旅の塵で汚れていた。もっともヘトールの衣服ほど汚くはなかったけれども。その顔にはしわが寄り、風に吹かれて肌が荒れていた。十数歩あるく間、彼は返事をしなかった。それからやっと話しはじめた。その声は平板で、高くもなく低くもなく、乾いたユーモアがあった。--「拷問者の影」第35章

この後、混乱の中でセヴェリアンはタロス博士やドルカスらの一行と離ればなれになり、ジョナスと二人で旅を続けることになります。セヴェリアンとジョナスの間には強い友情がめばえますが、セヴェリアンはこの中年の旅人が見た目通りの人物でなく、はるか昔のウールス出身の宇宙船乗りであり、星々の世界に帰る手段を求めて数百年もウールスを彷徨っていることを知ります。

「きみは前に、わたしの名前を珍しいと思うといったなあ。キム・リー・スンなら、わたしが・・・・・・子供の・・・・・・頃には、非常にありふれた名前だったかもしれない。現在は海底に沈んでしまった場所では、ありふれた名前だったかもね」セヴェリアン、きみはわたしの船の名前を聞いたことがあるかね?≪幸運の雲≫というのだが」--「調停者の鉤爪」第15章

宇宙船乗りは、空間と時間の両方を行き来しているため、過去のウールスの出身といっても単純に過去からやって来たというわけでもないようです。実際、ジョナスはウールスの過去のみならず未来の姿についてもある程度の知識を持っているようです。以下の部分は<新しい太陽>の到来したウールスの姿を示唆しているようです。

「今、ぼくは洪水になった<城塞>の中を、船に乗ってゆっくりと通っていくような気分だ」

それを聞いてジョナスがあまり厳粛な顔をしたので、わたしは吹き出してしまい、思わず立ち上がってしまった。--「調停者の鉤爪」第9章

ジョナスを乗せた宇宙船がウールスに戻ってきた時には、人類は星々の世界から撤退してウールスの中だけに留まり、もはや宇宙船のための港もなくなっていました。なんらかの事故により宇宙船は不時着し、ジョナスは負傷します。ジョナスはもともと機械の身体を持つアンドロイドでしたが(宇宙船乗りにはよくあることのようです)、ウールスには必要なテクノロジーがないため、やむなく墜落の際に巻き添えで死んだ人間の身体で代用します。

「われわれは墜落したんだ。あまり長い年月が経っていたので、帰還した時には、ウールス上に港がなくなっていた。船着場がなかったのさ。墜落の後、わたしの手は取れ、顔がなくなっていた。同僚の船員たちができるだけ修理してくれた。だが、もう部品がなかった。生物学的材料しかなかったんだ」--「調停者の鉤爪」第16章

愛するジョレンタを求め、セヴェリアンとともに<絶対の家>にやって来たジョナスは、捕えられて<控えの間>に拘置されますが、そこにいる囚人たちがやはりウールスに不時着した宇宙船乗りの子孫らしいと知り、自分の将来を予感してか錯乱状態に陥ります。

何か固くて冷たいものが手首に触れ、まるで生きているように動いた。掴んでみると、それはジョナスの金属の手だった。しばらくして、彼がそれでわたしの手を掴もうとしていたのだとわかった。「重力を感じるぞ!」彼の声は次第に大きくなった。「故障したのは照明システムだけにちがいない」彼は向きを変えた。すると、彼の手が壁に当たって、がりがり鳴るのが聞こえた。彼は、わたしには理解できない、鼻にかかった単音声言語で独言をいいはじめた。--「調停者の鉤爪」第16章

なんとか<控えの間>を脱出して偶然探し求めていた<イナイア老の鏡>を見つけたジョナスは、ウールスの外の世界に旅立ちます。

「これがきみの唯一のチャンスなら、行くがいい。幸運を祈るよ。もしジョレンタにあったら、きみは一時は彼女を愛したが、結局それだけだった、と伝えてやる」

ジョナスは首を振った。「わからないのか?修理がすんだら、彼女のところに戻ってくるつもりだぞ。正気になって、五体満足になったらね」--「調停者の鉤爪」第18章

その後ジョナスはミレスとしてセヴェリアンの前に戻ってきます。なお Jonas という名前はジーン・ウルフの親友のSF作家アルジス・バドリス(Algis Budrys)のミドル・ネームで、バドリスの「アメリカ鉄仮面」 "Who?" (仁賀克雄訳、朝日ソノラマ文庫、しかしすごい邦題だ)という作品は、事故によりサイボーグとなった男の物語なのだそうです。

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