ultan.net: 登場人物

Last Updated:

07/28/2002




聖キャサリン Holy Katharine

「真理と悔悟の探求者」通称拷問者組合の守護聖女。拷問者の徒弟は冬の終わりの聖キャサリンの祭の日に、自分たちの守護聖女を自分たちの手で処刑する儀式をおこなうことによって職人に昇格します。

聖女伝の内容が、われわれの守護聖女がマクセンティウスによって死の宣告を下される件にさしかかると、仮面をかぶった四人の職人が走り出て、彼女を捕まえる。今まであれほど静かに落ち着いていた彼女が今は抵抗し、もがき、大声をあげる。だが、彼らが彼女を掴んで車輪のほうに差し出すと、車輪は形が崩れ、変化するように見える。灯火の明かりで見ると、それは最初、たくさんの蛇、深紅と淡黄色と白の宝石をちりばめた緑錦蛇が、車輪から這い出してくるように見える。やがて、それらは花であり薔薇のつぼみであるとわかる。(中略)

「首を斬れ」マクセンティウスが要求する。わたしは剣を持ち上げる。剣はとても重い。

彼女はわたしの前にひざまずく。「あなたは全知の神の相談役です」わたしはいう。「わたしはあなたを殺さなければなりません。しかし、あなたはわたしの命をお救いください」

初めてその乙女がいう。「斬れ、恐れるな」--「拷問者の影」第11章

この儀式はキリスト教の聖女であるアレキサンドリアの聖カテリナ(Catherine of Alexandria)の伝説に基づいています。カテリナはエジプトの王女でしたが、アレキサンドリアの砂漠の隠者に「カテリナがキリストの花嫁に迎えられる」との告知があったため、洗礼を受け、キリストと神秘の結婚をします。時のローマ皇帝マクセンティウスがカテリナを見初め、諸博士を動員して議論でカテリナの信仰を破ろうとしますが、敗北します。怒った皇帝はカテリナを釘付きの車輪(Catherine wheel)で拷問にかけますが、車輪は天使により砕かれます。しかし結局カテリナは斬首されて殉教します。

"The Castle of the Otter" 所収の "The Feast of Saint Catherine" にあるように、もともとウルフは「聖キャサリンの祭」という中篇を構想していました。また "Helioscope" にあるように、聖なる存在を処刑せざるをえない「拷問者であることの苦痛」が「新しい太陽の書」の執筆動機の一つだったとのことです。従って聖キャサリンの祭の儀式は、シリーズの主題と深く結びついています。

聖キャサリンの日に職人に昇格する前、わたしはパリーモン師とグルロウズ師から組合のいろいろな秘密を明かされたものだが、この自叙伝を書きはじめた時には、それらの秘密をたとえ少しでも漏らすつもりはなかった。しかし、今その一つをお話しようと思う。なぜなら、それを理解しなければ、わたしがこの夜にディウトルナの湖上でしたことが、理解できないからである。その秘密とは、われわれ拷問者は服従する、というだけのことである。高く積み重なったすべての統治体の中で――どんな物質的な塔よりもはるかに高い、<鐘楼>よりも、ネッソスの<壁>よりも、テュポーン山よりも高い生業のピラミッドの中で――独裁者の<不死鳥の玉座>から、最も不名誉な職業の者、またその下働きをしている最も卑しい使用人にまで及んでいるピラミッドの中で――われわれは唯一の無傷の石なのである。想像もできないようなことを従順に実行する意志がなければ、だれも真に服従しているとはいえない。そして、われわれ以外に、想像もできないようなことをする者はいないのである。

キャサリンの首をはねた時に、みずからすすんで独裁者に与えたものを、どうして自存神に断ることができようか?--「警士の剣」第31章

拷問者はピラミッドの最底辺の存在であるが故に、ピラミッドの階梯から独立して、逆説的に聖なる存在になりうるのです。聖キャサリンの首をはねたのは世俗の独裁者に対する服従を意味しますが、自存神に対してであれば、さらなる服従をおこなうのは当然のことです。この部分は「警士の剣」の最後の部分で、破壊された<調停者の鉤爪>を前にしてセヴェリアンが達する精神状態に呼応します。

ついに、これらの大胆な前進と恐ろしい退却とを長いあいだ繰り返した後に、自分が持っているこの微小な物体について、真の知識に到達することは決してないだろうと覚った。そして、この思想とともに(これは一つの思想だったから)、第三の状態がやってきた。何かわからぬものへの幸福な服従の状態。反省抜きの服従。なぜなら、もはや反省することは何もないのだから。そして、ほんの少しも反抗の気味のない服従。--「警士の剣」第38章

かくしてセヴェリアンは「宗教的な法悦」ともいうべき境地に達しますが、それでは「独裁者」に対して「聖キャサリンの首」に差し出したごとく「自在神」に差し出すべき犠牲は何でしょうか。それは "The Urth of the New Sun" で語られるように、ウールスとそこに住む人々自身です。まさに「想像もできないようなことを従順に実行する意志」をもって「ほんの少しも反抗の気味のない服従」をおこなうことなしには、<新しい太陽>をもたらすことはかなわないのです。

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