Last Updated:
09/22/2002
<共和国>内の地方政府において、執政官の補佐として法の執行・刑罰を司る役人。セヴェリアンはセクラの方に自殺用のナイフを渡すという罪を犯しますが、パリーモン師らの尽力により、また組合の体面を保つため<共和国>北方のスラックスの町の警士に任命されます。
「ネッソス以外のどこにも――<城塞>内のここ以外のどこにも――われわれの組合の支部はないのだ。小さな町には刑吏しかいない。その者がその土地の審判人の判決に従って命を取ったり、折檻を加えたりするのだ。そういう者は一般に憎まれ、恐れられている。わかるか?」(中略)
「スラックスと呼ばれる町、別名 "窓のない部屋の町" というのがある」パリーモン師は続けた。「そこの執政官――アブディエススという名だが――その人が<絶対の家>に書簡をよこした。それを司法秘書官が城代に転送し、そこからわたしのところに回ってきた。スラックスでは、今説明した役人を火急に欲しがっている。過去においては、かれらは死刑囚を、その職務を受け入れるという条件で赦免してきた。現在では、田舎は欺瞞で腐っているし、この地位は必然的にある程度の信用を必要とするものだから、町当局はふたたびそのような任命の仕方をするのを渋っているのだ」--「拷問者の影」第13章
スラックスの執政官からの要請と組合の事情がうまく合致したが故にセヴェリアンは警士として派遣されるわけですが、罪人の事実上の流刑先としては、これは妙に重要な地位のように思われます。
この手記が明らかに示しているように、<獄舎>(つまり鎖の家)の監督は警士(つまり縛るもの)の義務の一つにすげない。この役人は刑事裁判の執行に関して、執政官の主席補佐官である。ある種の儀式の場合には、彼は抜き身の剣を持って、主人の前を歩く。これは執政官の権威を強く思い出させるためである。執政官によって裁判が行われている間、彼は(セヴェリアンが不満を述べているように)その椅子の左に立っているように要求される。死刑その他の主な法的処罰は彼が直接執行し、また、獄吏(つまり鍵を持つもの)の仕事も彼が監督する。--「警士の剣」付録
このように警士は各種実務を取り仕切る重要な役職であるのみならず、執政官の権威を象徴し高める、ある意味においては執政官以上の力を意味する地位と考えられます。もちろん本来の拷問者組合においても、その力は直接独裁者に由来する強力なもののはずですが、実際には拷問者たちは忌み嫌われ、社会の底辺に位置すると考えられているかのように見えます。それに対してスラックスでのセヴェリアンの立場は、同様に人々に恐れられてはいるものの、力と権威とをあわせ持った高級官僚のようです。
悪くすれば組合の掟を破ったとして処刑されていてもおかしくはなかったセヴェリアンが、このような高い地位を与えられたのは何故なのでしょう。パリーモン師の言葉にあるように、この時代にはそもそも拷問者を地方の<警士>として派遣する習慣がなく、あたかも何者かがわざわざセヴェリアンのためにその地位を用意したかのようです。次のパリーモン師の言葉もこのことを裏づけているように思われます。
スラックスの町はどこにあるか、パリーモン師に尋ねた。
「ギョルの下流だ」彼はいった。「海のそばだ」それから、よく老人がやるように、急に言葉を切って、いった。「いや、違う、わたしとしたことが、何を考えて入るのかな?ギョルの上流だ、もちろん」--「拷問者の影」第13章
この何気ない間違いは、この時パリーモン師が通常とは異なる精神状態にあったことを示唆しています。あくまでも憶測ですが、常にセヴェリアンを見守っていた存在がセヴェリアンの運命に介入した結果ではないかと思います。「海のそばだ」という言葉からは、セヴェリアンが後にマルルビウス師やトリスキールのアクアストルと別れる海岸が思い浮かびます。ならば、<神殿奴隷>の意志によりアクアストルが独裁者やパリーモン師に影響を与え、セヴェリアンが独裁者となり、<新しい太陽>をもたらす段取りを整えた、と言うことかもしれません。
ところで古代ローマにおける警士(リクトル)が持っていたのは<剣>ではないようです。
古代ローマの下僚。 先導警吏と訳す。命令権をもつ公職者を先導し,職務執行の便宜を図る。 コンスル(執政官) に 12 名,プラエトルに 6 名が定数で,斧の柄に棒を束ねたファスケス fasces を各自左肩に担い (民会では下ろす),命令権の峻厳を明示し,現実に逮捕,杖罰,斬首の命令を執行した。後に属州総督,ウェスタ女神の女祭司に,帝政期には元首の守護霊の祭祀役にも同行した。なおファスケスはファシズム (全体主義) の語源。 --平凡社「世界大百科事典」鈴木 一州著<リクトル>の項より
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