ultan.net: 登場人物

Last Updated:

09/19/2005




サンチャ Sancha

女城主ニムファの方の執事をしていたロマーが、<絶対の家>の<控えの間>に収監される原因となった高貴人の女性で女城主。

「ああ」老人はいった。「彼女はもう死んだということだ。だが、わたしの若い頃には、彼女は、立派な、健康な、若い女性だった。レオカディアの方が彼女をそそのかしてわたしと寝るように仕向け、それから、それが発覚するように仕組んだ。サンチャはそれを知っていたが、わずか十四歳だったから、どんな嫌疑もかからなかった。どのみちわれわれは何もしていなかった。彼女はわたしの衣服を脱がせはじめたばかりだったから」--「調停者の鉤爪」第15章

短編集 "Endangered Species" に収録されている小品 "The Cat" は、イナイア老に属する<厄除け地下洞> "Hypogeum Apotropaic" の執事オディロ(息子)の物語るサンチャと彼女の猫の物語です。

サンチャは父親の方の執事オディロと同年代の高貴人の少女で、他の高貴人の娘たちと同様に<絶対の家>で暮らしており、ちょうどセクラの方の少女時代の友人ドムニナがそうであったように、イナイア老のお気に入りの美しい娘でした。ある時イナイア老から<鏡>(スペキュラ)を見せられたサンチャは、深く考えずにいつも連れていた飼い猫を<鏡>の中に入れてしまいました。猫はブリアー宇宙の境界に消え失せてしまいましたが、愛する少女の嘆きにイナイア老は、猫を取り戻すためにできるだけのことをすると約束します。それ以来、サンチャの周りには、なにやら眼には見えない不思議な生き物がいるらしいとの噂が立ちます。

やがて十四歳になったサンチャはロマーとの間の不祥事によって不面目を被りますが、やがて南の地方の領地を受け継ぎ女城主サンチャとなり、時の独裁者アッピアン(おそらくセヴェリアンの時代の独裁者でもあります)の許しを得て<絶対の家>を離れます。その後彼女は地方の有力者フォースに嫁ぎ、<絶対の家>の人々から忘れられますが、数十年後に息子の嫁との不仲から<絶対の家>に戻ってきて、イナイア老の世話で<厄除け地下洞>に部屋を得ます。その頃父に代わって<厄除け地下洞>の執事となっていた息子オディロは、噂には聞いていたこの老婦人と不思議な猫の物語について知りたいものだと考えます。

この眼には見えないサンチャの猫の物語は、1983年の World Fantasy Convention 公式プログラムに掲載されたものです。その後ジャック・ダンとガードナー・ドゾワ編の猫SFアンソロジー "Magicats!" に再録されています。このアンソロジーは扶桑社ミステリーより「魔法の猫」として邦訳が出ていますが、残念ながら

なお、本書の原書にはウルフの短編がもう一編収録されているが、作者の長編シリーズと同じ世界を舞台にしていて、内容も長編と密接に関わるため邦訳は見送られた。--「魔法の猫」山岸真氏による解説より

とのことです。確かに「新しい太陽の書」読んでいない読者には、意味不明の作品かもしれません。ちなみに同アンソロジーには柳下毅一郎氏の訳で「ソーニャとクレーン・ヴェッスルマンとキティー」が掲載されています。

さて、眼に見えない猫というと、やはり思い出すのはセヴェリアンの飼い犬トリスキールのことでしょう。トリスキールはセヴェリアンのもとを去った後も、折にふれて、ある時は単独である時はマルルビウス師とともにセヴェリアンのもとを訪れます。サンチャの猫がトリスキールやマルルビウス師と同じようなエイドロンであり、逆にトリスキールとマルルビウス師についても<神殿奴隷>であるイナイア老が介在しているということでしょう。

「調停者の鉤爪」230ページのオディロの言葉からも明らかですが、<控えの間>の属する<厄除け地下洞>の棟全体がイナイア老の管理下にあり、だとすると<控えの間>に収監された囚人たちについても、ひょっとすると官僚組織の職務怠慢とかではなく、イナイア老の意図のもとに<控えの間>に何世代も留められているのかもしれません。サンチャやドムニナなどの高貴人の少女をイナイア老が可愛がっていたのにも、何やら意味がありそうです。

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