ultan.net: 登場人物

Last Updated:

05/18/2002




ウルタン師 Master Ultan

<城塞>の中の公文書管理所=図書館を管理する盲目の司書で、管理者組合の師匠。

最初、白っぽい衣だと思ったものが、今は腰まで届きそうな顎鬚だとわかった。すでにわたしは、大人といわれている多くの人と同じくらい背が伸びていたが、彼はそのわたしよりも頭一つぶん高く、真の高貴人だった。--「拷問者の影」第6章

拷問者組合をはじめほとんどの組合員は「調停者の鉤爪」付録の「共和国の社会関係」によると "玉座の従者" (servants of the throne)階級に属するようですが、ウルタン師は例外的に高貴人であるようです。これが管理者組合に固有のことなのか、それともウルタン師だけの特殊な例なのかはわかりませんが、セヴェリアンが拷問者組合からの使いであることを知ったウルタン師は、管理者組合がどのようにして新しい組合員を獲得するのか話して聞かせます。

「わしがこの組合へ加入を許された時のことは、ほとんど覚えていないが、たぶんおまえはわれわれの会員の募集方法を知っているだろうな?」

わたしは知らないといった。

「昔からの規則で、あらゆる図書館に子供用の部屋が用意してある。そこに、子供たちの喜びそうな綺麗な絵本と、いくらかの単純な驚異の物語が置かれている。多くの子供たちがこれらの部屋にやってくる。そして、彼らがその分野に留まっているかぎり、彼らに対しては何の関心も持たれない」

彼はためらった。そして、その顔には何の表情も認められなかったが、これから言う事がサイビーに苦痛を与えるのではないかと恐れているような印象を、わたしは受けた。

「しかし、まだいたいけな年齢で、子供室から一人でさまよい出て・・・・・・しまいにまったくそこに戻らなくなる子供がいることに、時々、司書が気づく。そのような子供はしまいに、どこか低くて薄暗い書棚に『黄金の書』を見つける。おまえはこの本を決して見たことはないし、これから見ることも決してないだろう。それに出逢う年齢を過ぎているから」

「きっと、すごく美しいでしょうね」わたしはいった。

「たしかに美しい。わしの記憶が誤りでなければ、表紙は黒いバックラムで、背の部分はかなり色があせている。背丁のいくつかが露出している。そして、挿絵のあるものは取られている。だが、それは驚くほど美しい本だ。もう一度あれを見つけたいものだ。もっとも、今はすべての書物からわしは締め出されているがな。

その子供は、今いったように、やがて『黄金の書』を発見する。その時に、司書がやってくる――吸血鬼のように、という者もあれば、洗礼式の介添えの妖精のように、という者もある。彼らはその子供に話しかけ、子供は彼らの仲間に加わる。それ以後、彼はどこにいるにしても、図書館の中にいることになり、その両親はまもなく子供の消息を聞かなくなる。たぶん、拷問者の間でも大体同じだと思うが」--「拷問者の影」第6章

この『黄金の書』というエピソードは、ウルフ自身の体験を反映している、あるいは実体験をある意味理想化して描いたものなのかもしれません。(蛇足ですが、そうするとウルフにとっての<組合>とはひょっとしてSFファンダムなのか?という疑問が湧きます。まあ「作者にとってこれこれは何を意味する」といった議論は野暮なのでやめておきますが)なお "The Castle of the Otter" 所収のエッセイ "The Feast of Saint Catherine" の中でウルフは、自分にとっての『黄金の書』として、ジャック・ヴァンスの "The Dying Earth"1950, 邦題「終末期の赤い地球」1975年久保書店刊、ただし絶版)の名を挙げています。"The Dying Earth"  は、同じシリーズに属する "The Eyes of the Overworld" (1966), "Cugel's Saga" (1983), "Rhialto the Marvellous" (1984) とともに "Tales of the the Dying Earth" として一冊本で入手可能です。

「図書館そのものが<城塞>の壁の外に広がっているということだ。また、ここでそのようにはみ出している施設は、図書館だけではない。つまり、われわれの砦の内容物はその容器よりもずっと大きいということだ」--「拷問者の影」第6章

ウルタン師の図書館はたいへん大きく、おそらくは<城塞>から遠く離れた<絶対の家>にまで続いています。そしてそれは、単に図書館が巨大だということではなく、おそらくネッソスの植物園のように、通常の空間(それにおそらくは時間も)とは異なった場所に存在することを意味するのだと思われます。それではこの図書館はいったいどういった目的で造られたものなのでしょう。

「そして、独裁者スルピキウスの帰還に備えて図書館のわれわれが三百年間維持してきた(そして、結局まだだれも入ってこない)部屋の中央に立っている大きな象牙のケースから読みはじめ、十五年間にわたって、だいたい一日に二冊の割りで、外側にむかって猛烈に読みふけった」--「拷問者の影」第6章

「夜が明けると、彼は命令を発して、松明に点火するのを禁じ、巨大な地下収蔵庫を建設させ、白衣の男たちが集めた書物や巻物を収めさせたの。なぜなら、彼の計画するその新帝国が万一失敗に終わったら、彼はその収蔵庫に隠退して、古代人を真似て捨てることにきめた世界に、入ろうと思ったからなの。(中略)

にもかかわらず、彼は収集したすべてを密封する前に、監視人をつけたといわれるの。そして、監視人は寿命が尽きると、後継者をつくり、それがまた後継者をつくるといった具合にして、その独裁者の命令を忠実に守ったのよ。なぜなら、彼らには、機械が貯えていた知識から生じる野性的な思考がしみこんでいて、このような忠実さは、それらの野性的なものの一つだったから」--「警士の剣」第6章

この二人の独裁者は明らかに別人で、後者のサイリアカの語る物語中の独裁者はおそらくテュポーンを指すものと思われます。(前者の引用の独裁者スルピキウスについては何もわかりません)サイリアカの物語がウルタン師の図書館の起源を示すならば、図書館の造られた目的は、かつて<最初の帝国>を造る際に古代の人間が機械に売り飛ばし、それを保存した機械が最初は復讐の念から、次には愛情から人間に返した<野性的なもの>を保存するためだと思われます。ウルタン師が獄中のセクラの方のためにセヴェリアンに託す茶色の本「ウールスと天空の驚異の書」は、まさに<野生的なもの>についての隠された知識を書きとめたもの(のおそらく後世の写本)なのでしょう。

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