ultan.net: 登場人物

Last Updated:

04/06/2003




白い彫像 white statue

<絶対の家>の外側の庭園を警備(?)する巨大な彫像。見た目は石でできていますが、ゆっくりと動くことができます。一種のロボットのような存在のようですが、話すことはできません。どうやら<絶対の家>を守る独裁者の近衛兵たちと協力して周囲の警護をおこなっているようです。

私がこの後すぐに探検することになる、めくるめく世界のどこかに、人類と似ているようで、似ていない種族が住んでいる。背丈がわれわれより高いわけではない。肉体は、完全であるという点を除けば、われわれのものと似ている。しかし、彼らが信奉する規範は完全にわれわれとは異質である。われわれと同様に、二つの目と、一つの鼻と、一つの口はある。だが、彼らはこれらの造作(今もいったように、それらは完全だ)を使って、われわれが決して感じたことのない感情を表現するので、われわれにとって、彼らの顔を見ることは、大昔の、恐ろしい、しかもきわめて重要か、まったく理解不可能な感情のアルファベットのようなものを眺めることになる。

そのような種族が存在する。しかし、この<絶対の家>の庭園の端で、それに遭遇したわけではない。木立の間を動いているのを、さっきわたしが見て、そして今――はっきり見えるところまで――そちらに向かって突進していったのは、そのような生物の、生命の火を吹き込まれた巨大な像なのであった。その肉体は白い石でできていた。そして、目は、人間の彫像に見るような(卵の殻を切断して作ったような)滑らかな丸い盲目の目だった。それがゆっくりと、麻薬患者か夢遊病者のように、だが不安定でなく、動いているのだった。それには視覚はないようだったが、鈍いとはいえ意識はあるような印象を受けた。--「調停者の鉤爪」第14章

この部分からは、白い彫像がおそらく<神殿奴隷>の姿に似せて造られたものであり、また彫像のモデルとなった<神殿奴隷>たちがウールスの人間とは姿かたちは似ていても、まったく異質の存在であることがわかります。またタロス博士の劇「天地終末と創造」の中の次の一節からは、どうやら彫像たちは、自身<神殿奴隷>であるイナイア老の命に従っているのだということがわかります。ひょっとすると<神殿奴隷>=イナイア老の力を後ろ盾とする独裁者の権力は、かなりの部分をこの白い彫像たちに拠っているのかもしれません。

ジャハイ その女が何者であろうと、あたしの千分の一も年を取ってはいないよ。

彫像が盲人のようにゆっくりと動いて登場。

ジャハイ 何あれ?

第二の兵士 イナイア老の小さいペットの一つだ。言葉もわからないし、声も出せない。生き物であるかどうかさえ、おれにはわからんよ。--「調停者の鉤爪」第24章

ところで白い彫像たちの役割は、単純に<絶対の家>を警備することだけではないようです。セヴェリアンとジョナスが近衛兵たちに捕えられると、なんらかの理由から彫像たちは捕えられたセヴェリアンのもとに集まってきます。

この暗い庭園の中心の櫓から、緑青で緑色になった一組のゴングが吊されていた。それは風によって鳴らされるように意図されたもののように見えたが、風がここまで届くことはありえないと思われた。

少なくとも、近衛兵の一人が黒い石壁の一つにはまった青銅と虫食い跡のある木でできた重い扉を開くまでは、わたしはそう思っていた。ところが、その扉が開くと、一陣の冷たく乾いた風がその戸口を吹き抜け、ゴングを揺らして鳴らした。その音はあまりによく調音されていたので、音楽家が意図的に作曲したものであるかのように鳴り響き、その人の思想が今ここに流されているかのように思われた。

そのゴングを見上げると(近衛兵はそれは妨げなかった)、また彫像が見えた。それらは少なくとも四十体はいた。彼らは庭園をずっと横切ってわれわれの後を追ってきたのである。そして今、ついに動きを止め、小壁に並ぶ戦没者記念像のように、穴の縁に並んでわれわれを見下ろしていた。--「調停者の鉤爪」第14章

これはまさしく<神殿奴隷>によって造られた彫像たちが、<新しい太陽>となるべきセヴェリアンを認識して集まってきたのでしょう。あるいは彫像たちは打ち鳴らされるゴングの音に引きつけられたのかもしれません。<新しい太陽>の到来とともに鐘=ゴングが鳴らされというのは、「天地創造と終末」の次の一節でも明示されています。

場外に低い鐘の音が聞こえる。

独裁者 あれはなんだ? おい、予言者、だれが、なぜ、あれを鳴らしているか、いって見てこい。(予言者、退場)

ノド きっとあんたの鐘が<新しい太陽>の歓迎を始めたんだ。--「調停者の鉤爪」第24章

<神殿奴隷>であるイナイア老が<絶対の家>と<第二の家>を造り、歴代の独裁者に仕えてきたのは、ウールスを救う<新しい太陽>となるべき存在を見出すためです。すると白い彫像たちは、<新しい太陽>の到着をいち早く発見し、これに奉仕するべく配置されているのかもしれません。なお同様に第五作の "The Urth of the New Sun" にも<新しい太陽>の到来とともに鐘が打ち鳴らされる場面があります。

ジャハイ あたしの奴隷をごらん。あんた、こいつと戦えるかい? やってごらん――こいつの広い胸で、その槍を折るがいい。

彫像はひざまずき、ジャハイの足にキスする。

第二の兵士 とんでもない。だが、足の早さなら、こちらが上だぞ。

彼はジャハイを肩に担いで、逃げる。丘の扉が開く。彼が中に入ると扉はぴしゃりと閉まる。彫像はすごい力でそれを叩くが、扉はびくともしない。彫像は涙を流し、結局、向きを変えて、手で土を掘り始める。

ガブリエル (舞台の外から)このようにして、石像は人間が逃げ去った後、荒野でただひとり過ぎ去った時代を忠実に守りつづけるのです。--「調停者の鉤爪」第24章

<絶対の家>では沈黙を守って佇むだけの白い彫像たちは、なぜかジャハイに対しては感情を剥き出しにして恋い焦がれているようです。これは何を意味するのでしょう。一つ考えられるは、ジャハイを演じたジョレンタに恋い焦がれて、人間でない機械の身体を持つジョナスです。そうだとすると、ジョナスと白い彫像とはなんらかの意味で同質の存在だということなのかもしれません。

それにしてもガブリエルの言葉にある「荒野でただひとり過ぎ去った時代を忠実に守りつづける」石像とは何を意味するのでしょう? よくある設定かもしれませんが、わたしはロジャー・ゼラズニイの大傑作短編「フロストとベータ」(For a Breath I Tarry)を思い出しました。あとT. J. バスのこれも傑作長編「神鯨」(The Godwhale)というのもありますね。どちらも入手困難なのは残念です。

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