電子書籍について(その2)

Last Updated:

10/14/2002




電子書籍は今どういうことになっているんだろう?

前回に続いて各種電子書籍の使い勝手を中心に、あれこれレポートしてみようと思います。なお前回あげた四種類に「グラン・ヴァカンス」を加えて計五種類の電子書籍を比較します。ところで電子書籍といった場合、PocketPCPalm、ザウルス等のPDAで読むものと、PC上で読むものに分かれています。今回テストした電子書籍の中にはPDAでも読めるものもありますが、一応PCで読むことを前提にレポートします。なお管理人のPC環境は以下の通りです。

二年以上前に購入したPCで、まあ可もなく不可もない環境だと思います。比較した電子書籍は以下の通りです。

T-Time

  • 購入サイト:電子文庫パブリ
  • 購入した書籍:「アマノン国往還記」倉橋由美子作
  • 価格:850円

電子書籍リーダー

  • 購入サイト:10DaysBook
  • 購入した書籍:「ソロモン王の洞窟」H. R. ハガード作
  • 価格:300円

ブンコビューア

Microsoft Reader

  • 購入サイト:Amazon.com
  • 購入した書籍: "Lyonesee" by Jack Vance
  • 価格:$6.99

Adobe e-Book Reader

  • 購入サイト:Amazon.com
  • 購入した書籍: "The Sirens of Titan" by Kurt Vonnegut, Jr.
  • 価格:$8.99

まずは購入

電子書籍の購入サイト

まず最初に各電子書籍を購入したサイトの紹介をします。比較的小額とはいってもインターネットでクレジットカードを使って買い物をする以上、そのサイトがどのような組織によって運営されているのか、どの程度信頼が置けるのか、トラブルが起きた場合の対応はどうかは重要なポイントです。

「アマノン国往還記」を買ったのは 電子文庫パブリ というサイトです。これは電子文庫出版社会というなんだかよくわからない名前の組織が運営するもので、徳間書店、双葉社、文藝春秋、学習研究社、角川書店、講談社、光文社、集英社、祥伝社、新潮社、筑摩書房、中央公論社といった大手出版社の本を扱っており、どうやらこれら出版社のコンソーシアムのようです。しかし「パブリについて」というページを見ても、「本に永遠の命を吹き込みたい」とかどうでもいいことが書いてあるだけで、実体はなんだかよくわからりません。いやしくもインターネットで電子商取引をおこなうのだから、もう少し信頼性の持てる書き方をしてもいいんじゃないかと思います。技術的なQ&Aは比較的詳しく記載してありますが、電子商取引としての記載はものたりません。

「ソロモン王の洞窟」を買ったのは 10DaysBook というサイトです。こちらは株式会社 イーブック イニシアティブ ジャパンという会社が運営しているようで、まあ簡単な会社案内とかは書いてあります。だからどうだということもないのですが。こちらも電子商取引に関する注意点などの記載はほとんどありません。

「グラン・ヴァカンス」を購入したのはシャープの運営する Sharp Space Town ブックス です。ところでこの Sharp Space Town というのは、名前は聞いたことはありますが、電子商取引サイトのような、ザウルスサポートサイトのような、ISPのような、情報ポータルのような、なんだかよくわからないものです。いったいどういう人を対象にしているのでしょうか?「スペースタウンって?」と題されたページを見ても、古めかしいFLASHで意味不明な説明が出るだけで、なんだかよくわかりません。こちらも電子商取引に関する注意点などの記載はほとんどありません。ひょっとしたらあるのかもしれませんが、サイトがごちゃごちゃしていて探す気にもなりませんでした。

"Lyonesee""The Sirens of Titan" を購入したのは米 Amazon.com です。こちらはさすがに専門だけあって、オンライン取引に関してどういうポリシーなのか、どういう危険性があるのか、プライバシー保護はどうなっているのか等、細かくサイトに記載されています。まあアメリカの場合ちゃんと記載しないとすぐに訴えられるわけですが。あと私の場合、これまでに米アマゾンでも日本アマゾンでも何度も本を買っているので、安心感があります。

ラインアップ

あくまで管理人の読みたいSFがあるかどうか、また検索の容易性はどうかという基準で評価します。管理人と趣味の異なる方であれば当然評価は異なるでしょう。

電子文庫パブリ

電子文庫パブリ の場合、サイト自体の品揃えというよりは、参加している大手出版社がどのようなスタンスで電子書籍化しているかということが重要なのでしょう。出版社別・ジャンル別、また書名・作者名で検索でき、まあ検索性は普通でしょう。2002/10/14現在、総出版点数は3831冊、出版社別に見ると徳間書店(506冊)、角川書店(544冊)、光文社(1148冊)、集英社(230冊)、新潮社(223冊)といったところです(すぐにわからない出版社は省略)。「SF・ホラー・ファンタジー」のジャンルには485冊とかなりの点数がありますが、このうちかなりの部分を架空戦記が占めます。出版社のラインアップからしてもあまり驚くようなものは期待できませんが、日本SFの旧作で絶版になっているようなものは結構あるようです。

10DaysBook

10DaysBook は一見してごちゃごちゃして妙にうさんくさいサイトです。どちらかというとマンガ主体の電子書籍サイトなのですが、なにしろサイトトップには「手塚治虫 七色いんこ」「水野英子 白いトロイカ」「水島新司 ダントツ」といった約20個のバナーがタイル状にならべられていて、その下に小さなフォントで書籍一覧が延々と続いています。手塚治虫全集382巻をはじめとした古めのマンガが大量にあるかと思うと、突然岩波文庫で森鴎外や二葉亭四迷があったり、創元推理文庫の江戸川乱歩があったりします。かと思うと、保育社「色絵染付」とか農文協「発酵肥料で健康菜園」なんてのもあります。はっきり言ってわけわかりません。SF関連書としてはマンガを除けば、創元のウェルズ・ヴェルヌ・ハガードくらいでしょう。検索などという洒落た機能はないので、トップページで気に入った本があれば即クリックというすがすがしさです。

Sharp Space Town ブックス

Sharp Space Town ブックス は、もともとはザウルス文庫としてザウルス専用の電子書籍を取り扱っていたものが、最近 Windows/PocketPC/WindowsCE/Palm 用のビューアーを用意したもののようです。在庫約4000点のザウルス文庫のうち、文藝春秋、中央公論、祥伝社、丸善、集英社、光文社、NHK出版と、鬼平ウェブ文庫(文藝春秋)、ザウルスセレクト文庫(出版社多数)の計1800点が Windows でも読めます。私の購入した早川書房の「Jコレクション」シリーズは、。どうやらこのザウルスセレクト文庫の一部のようです。ところでSharp Space TownのトップのNewsコーナーには「Jコレクション」の記事がありますが、Sharp Space Town ブックス自体には早川のハの字もありません。一方早川書房のページでも「ザウルスセレクト文庫」より「mdfフォーマット」でダウンロード販売と記載されていますが、Windows版のことはかけらも書かれていません。おそらく良くわかっていないのでしょう。書籍検索はというと、加盟出版社全体では書名・著者名検索はありますが、ジャンル別検索はありません。加盟各社のページも総じて検索性は悪いようです。一応「ザウルスセレクト文庫」にはジャンル別検索があって、ここでSFを検索すると「Jコレクション」の既刊7冊と、なぜか創元のウェルズ「宇宙戦争」とヴェルヌ「月世界へ行く」が出てきます(この二冊は10DaysBookにもあったもので、定価も同じですがフォーマットは違います)。

Amazon.com

Amazon.com の場合、"BOOKS" の下に "E-BOOKS & DOCS" というカテゴリーがあり、さらにジャンル別や著者名別に検索できるようになっており、操作性は通常の本や音楽CDなどの場合と全く同じです。また通常の本と電子書籍を一緒に検索したり、本の検索結果から別フォーマットとして電子書籍を選んだりもできます。さらに電子書籍の場合は、Microsoft Reader, Adobe e-Book Reader, PDF, Pocket PC といったフォーマット別のセクションもあり、それぞれがさらにジャンル等で分かれています。このうち Microsoft Reader でSFファンタジーのジャンルでは861点、 Adobe e-Book Reader のSFファンタジーでは543点が、全フォーマットでは967点がラインアップされています(MicrosoftAdobe では重複がかなりあります。また Pocket PC のものはたぶん全て Microsoft Reader で読めます)。リストを眺めてまず気がつくのは、スタートレックものがやたら多くて、合わせて166点もあります。いつもアマゾンを見ていてもこれには気がつきませんでした。それ以外にはアン・マキャフリイやロイス・マクマスター・ビジョルドといった売れっ子が多いのはもちろんですが、時々かなりマイナーな作家のものもあります。とは言っても基本的にはベストセラーが中心でしょう。ジーン・ウルフではなぜか「短い太陽の書」最終巻の "Return to the Whorl" だけがラインアップされています。

価格

「アマノン国往還記」は850円でした。これはとにかく単行本も文庫も現在絶版なので、安いとか高いとか言う問題ではないでしょう。ちなみに「アマノン国往還記」は新潮社のオンデマンド出版でも取り扱っており、こちらは5300円です。電子文庫パブリの新潮社のラインアップは現在絶版・品切れのものが中心のようで、そうでないものも文庫定価より1-2割安いようです。角川書店などでは文庫と同じ価格のようです。

創元の「ソロモン王の洞窟」の場合は300円で、こちらは文庫版600円のちょうど半額です。10DaysBook の場合、ほとんどの文庫・マンガが定価300円であり、まず価格ありきのようです。

「グラン・ヴァカンス」はソフトカバー単行本価格が1600円に対して電子書籍が1100円、「Jコレクション」の他の作品についても、一律単行本価格から500円引きです。ピカピカの新刊が読めるわけですから安いとも言えますが、500円の差なら普通は本を買うと思うので、いったい誰がわざわざ電子書籍版を買うのかと少し疑問を感じます。新刊を同時に電子書籍でも出すというのが、新しいようでもありますが、私の電子書籍に対する考え方からすると、少し違和感があります。でもひょっとしたら単行本の増刷はせずに、文庫本化するまでの間コストの低い電子書籍で少しでも儲けようという深い意図があるのかもしれません。

"Lyonesee"$6.99で、アマゾンでの電子書籍ではまあ平均的な価格です。この本はUS版は品切れのようで直接比較できないのですが、UK版のペーパーバックが日本のアマゾンで1345円ですので、やや安いと言えるでしょう。

"The Sirens of Titan"$8.99で、まあこれもペーパーバック並でしょう。

続く

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