ハヤカワ文庫は入手可能か

Last Updated:

10/30/2002




ハヤカワ文庫SFはどのくらい入手可能か

「新しい太陽の書」をはじめとして、ちょっと昔にハヤカワ文庫SFから出版された作品の多くが現在では入手困難になっているようです。例えば近刊で「公家アトレイデ」が出版されているにもかかわらず、もともとのフランク・ハーバートの「デューン」では「砂の惑星」しか新刊書籍で入手できないとか。ただ、漠然と思ってはいても、どのくらいの本が絶版になっているのか曖昧なままで議論してもしかたがないので、実際のデータを使ってみようと思います。

発売時期別の入手可能状況

データのソースは早川書房のサイトの書籍検索です。「文庫」「海外」「SF/ファンタジイ」にチェックを入れて検索すると、2002年10月27日現在で565冊が表示されますが、このうちSFと分類されている398冊についてハヤカワ文庫SFの既刊リストとマージし、1400番までを対象に分析します。検索不能な本が即品切れ・絶版なのかどうかはわかりませんが、出版社のサイトの目録で探せないのですから、まあそう考えて良いでしょう。ところでハヤカワ文庫SFの初期に一部含まれていた日本人作家の作品は上記検索条件ではヒットしませんが、これらはまず間違いなく絶版だと思われるので(例の事件もありましたし)、一応「入手不可」とみなします。

実際には398冊のうちには1400番以降のものも含まれていますので、これらを除外すると1400冊のうち376冊(26.9%)が早川書房のサイトから検索して注文可能、すなわち入手可です。これを100冊単位に集計したものが以下の表です。

番号 入手可能 入手不可
1-100 11 89
101-200 7 93
201-300 30 70
301-400 19 81
401-500 13 87
501-600 21 79
601-700 17 83
701-800 26 74
801-900 17 83
901-1000 14 86
1001-1100 18 82
1101-1200 29 71
1201-1300 61 39
1301-1400 97 3
1-1200 222 978
Percentage 18.5% 81.5%
1-1400 380 1020
Percentage 27.1% 72.9%

ハヤカワ文庫SFチャート

1400冊のうち380冊(27.1%)が入手可能、逆に1020冊(72.9%)は入手不可ということになります。グラフを見ると1200番のあたりにギャップがあるため、1200番までだけを対象とすると、入手可は222冊(18.5%)、入手不可は978冊(81.5%)となります。ちなみに1200番は1997年8月発行の宇宙英雄ローダンシリーズ232「偽のガンヨ」です。発売して5年程度経過した作品はまず入手困難だと思った方が良いでしょう。

入手不能な主な作品

SF Seminar が選ぶオールタイムベストSF投票で200位までにランキングされた作品のうちハヤカワ文庫でかつ入手不可のものをリストアップします。ところでこの投票結果は、ウェブページを見ただけではいつ時点のものなのかが不明ですが、SFマガジン第500号のオールタイム・ベストに対抗したもののようなので、おそらく1998年の調査だと思われます。シリーズ作品についてはシリーズに対してと単独作品に対してが重複して投票されている場合があり、例えばエルリック・シリーズは88位ですが「ストームブリンガー」については74位にランクされています。

順位 タイトル 著者 シリーズ名
19 デューン砂漠の救世主 他 フランク・ハーバート デューン
20 大潮の道 マイクル・スワンウィック  
24 ノヴァ サミュエル・R・ディレイニー  
24 天の筏 他 スティーヴン・バクスター ジーリー
34 ストーカー A&B・ストルガツキー  
34 拷問者の影 他 ジーン・ウルフ 新しい太陽の書
38 地獄のハイウェイ ロジャー・ゼラズニイ  
38 透明惑星危機一髪! 他 エドモンド・ハミルトン キャプテン・フューチャー
40 都市 クリフォード・D・シマック  
40 プロテクター 他 ラリイ・ニーヴン ノウン・スペース
40 サンダイバ- デイヴィッド・ブリン 知性化
45 都市と星 アーサー・C・クラーク  
45 神鯨 T・J・バス  
58 復讐の序章 他 ジャック・ヴァンス 魔王子
64 光の王 ロジャー・ゼラズニイ  
64 ホワイト・ライト ルーディ・ラッカー  
64 大宇宙を継ぐ者 他 シェール&ダールトン 他 宇宙英雄ローダン
74 アトムの子ら ウィルマー・H・シラス  
74 愛に時間を ロバート・A・ハインライン  
74 スチール・ビーチ ジョン・ヴァーリイ  
74 スト-ムブリンガ- マイクル・ムアコック エルリック・サーガ
88 オッド・ジョン オラフ・ステープルドン  
88 星界の王死すとき 他 ジョン・ジェイクス 第二銀河系
88 虚空の遺産 エドモンド・ハミルトン  
88 ソングマスター オースン・スコット・カード  
88 楽園の泉 アーサー・C・クラーク  
88 夢の蛇 ヴォンダ・N・マッキンタイア  
88 マン・プラス フレデリック・ポール  
88 重力が衰えるとき 他 ジョージ・アレック・エフィンジャー ブーダイーン
88 ハリダンの紋章 ジャック・マクデヴィット  
88 宇宙への序曲 アーサー・C・クラーク  
88 世界の果てまで何マイル テリー・ビッスン  
88 メルニボネの皇子 他 マイクル・ムアコック エルリック・サーガ
113 異次元の女王 他 C・L・ムーア ノースウェスト・スミス
113 星からの帰還 スタニスワフ・レム  
113 天の光はすべて星 フレドリック・ブラウン  
113 スターシップと俳句 ソムトウ・スチャリトクル  
113 レ・コスミコミケ イタロ・カルヴィーノ  
113 ヴァーミリオン・サンズ J・G・バラード  
113 ヒーザーン ジャック・ウォマック  
113 パラダイス マイク・レズニック  
113 時空の支配者 ルーディ・ラッカー  
142 海竜めざめる ジョン・ウインダム  
142 ポストマン デイヴィッド・ブリン  
142 遊星よりの昆虫軍X ジョン・スラデック  
142 女の国の門 シェリ・S・テッパー  
142 火星転移 グレッグ・ベア  
142 銀河辺境への道 他 A・バートラム・チャンドラー 銀河辺境
170 スラン A・E・ヴァン・ヴォクト  
170 砂漠の惑星 スタニスワフ・レム  
170 航時軍団 ジャック・ウィリアムスン  
170 この人を見よ マイクル・ムアコック  
170 落ちゆく女 パット・マーフィー  
170 キルリアンの戦士 他 ピアズ・アンソニイ クラスター・サーガ
170 二重太陽系死の呼び声 他 ニール・R・ジョーンズ ジェイムスン教授
170 階層宇宙の創造者 他 フィリップ・ホセ・ファーマー 階層宇宙
170 地球の緑の丘 ロバート・A・ハインライン 未来史
193 月は地獄だ! ジョン・W・キャンベルJr.  
193 恋人たち フィリップ・ホセ・ファーマー  
193 気まぐれな仮面 フィリップ・ホセ・ファーマー  
193 わが愛しき娘たちよ コニー・ウィリス  
193 フライデイ ロバート・A・ハインライン  
193 女王天使 グレッグ・ベア  
193 果しなき河よ我を誘え 他 フィリップ・ホセ・ファーマー リバーワールド
193 宇宙零年 ジェイムズ・ブリッシュ 宇宙都市

SFセミナーのこのリストにどれほどの意味があるのかはわかりませんが、一つの目安にはなるでしょう。これら以外にも例えば「人類皆殺し」「竜を駆る種族」「成長の儀式」「真世界シリーズ」「泰平ヨンの航星日記」「火星のタイム・スリップ」「野獣の書」「多彩の地」「キャメロット最後の守護者」「ヴァレンタイン卿の城」「夜の大海の中で」「収容所惑星」「永劫」「雪の女王」「エデン」「天空の劫火」「スロー・バード」「世界の合言葉は森」「ドクター・アダー」「空洞地球」「百万年の船」「冬長のまつり」「ありえざる都市」「ヨブ」「無限アセンブラ」「ウロボロス・サークル」「内海の漁師」「時間旅行者は緑の海に漂う」「ジャンパー-跳ぶ少年-」「幻惑の極微機械(ナノマシン)」「リメイク」など全て入手不可です。

著者別の状況

次にどのようなタイプの作品が入手可能な傾向があるのか分析するために、著者別に集計した上で、既刊点数10冊以上の著者の作品を抽出し、入手可能な作品の比率でソートしてみました。ただし便宜上複数著者による共作は別カウントとしています。また宇宙英雄ローダンシリーズは一つにまとめました。

著者 入手可能 入手不可 合計点数 可能比率
デイヴィッド・ファインタック 12   12 100.0%
フィリップ・K・ディック 13 1 14 92.9%
デイヴィッド・ブリン 12 2 14 85.7%
アイザック・アシモフ 33 6 39 84.6%
カート・ヴォネガット 11 4 15 73.3%
アン・マキャフリイ 19 7 26 73.1%
オースン・スコット・カード 10 8 18 55.6%
フレデリック・ポール 6 6 12 50.0%
アーサー・C・クラーク 11 15 26 42.3%
ラリイ・ニーヴン 4 7 11 36.4%
ジェイムズ・ブリッシュ 5 12 17 29.4%
グレッグ・ベア 5 13 18 27.8%
ロバート・A・ハインライン 9 25 34 26.5%
フランク・ハーバート 4 13 17 23.5%
ルーディ・ラッカー 2 8 10 20.0%
スタニスワフ・レム 2 9 11 18.2%
ロジャー・ゼラズニイ 2 13 15 13.3%
グレゴリイ・ベンフォード 2 14 16 12.5%
宇宙英雄ローダン 34 246 280 12.1%
ティモシイ・ザーン 1 9 10 10.0%
ロバート・シルヴァーバーグ 1 9 10 10.0%
ポール・アンダースン 1 13 14 7.1%
エドモンド・ハミルトン 1 24 25 4.0%
エドガー・ライス・バロウズ 1 37 38 2.6%
A・バートラム・チャンドラー 0 23 23 0.0%
マイクル・ムアコック 0 21 21 0.0%
フィリップ・ホセ・ファーマー 0 15 15 0.0%
キース・ローマー 0 10 10 0.0%
ドナルド・モフィット 0 10 10 0.0%

こうしてみると、オールドSFの御三家の中でもアシモフが84.6%と入手しやすい作品が多いのに対し、クラークやハインラインは意外と入手困難なのがわかります。比較的最近の作家に限っても、デイヴィッド・ブリンやオースン・スコット・カードがそこそこ入手できるのに対し、グレッグ・ベアやルーディ・ラッカーは惨憺たるものです。スティーヴン・バクスターも<ジーリー>シリーズは全滅です。

集計対象を既刊5冊以上の著者にひろげると、リン・カーター、アンドレ・ノートン、ウォルター・ジョン・ウィリアムズ、ジャック・ヴァンス、ロバート・E・ハワード、グレゴリイ・カーン、ロバート・シェクリイが全滅リストに加わります。

どうでもいいような作品も絶版になっていますが、必ずしも名作だから入手可能というものでもないようです。良質でも地味な作品はかなりの確率で入手困難ですし、アシモフは入手可でもハインラインは駄目、ディックは入手可でもレムは駄目、ブリンは入手可でもベアは駄目、マキャフリイは入手可でもファーマーは駄目という具合に、傾向の似た作家でもはっきり明暗が分かれています。どうやら出版社の方針として、注力する作家を限定して、その他の作家は切り捨てているような気がします。シリーズ作品に限ってみると、発売されてから数年たっても入手できるのは、ファウンデーション・シリーズとパーンの竜騎士、それにスタートレックくらいのものです(ブリッシュで入手可能な作品は全てスタートレックです)。このような状況であれば、<新しい太陽の書>が絶版なのも当たり前かもしれません。

ネット掲示板などで若いSFファンが「好きな作家はアシモフ」とか書いているのを見て、正直「なんでいまだにアシモフ?」と思っていたのですが(だってアシモフなんて私がSFを読み始めた二十数年前だって十分に古くさかった)、単にアシモフが一番手に入りやすいからかもしれません。

たとえば福武書店が出したジョン・クロウリーの「エンジン・サマー」が絶版だからといって誰も腹を立てたりしないように、ハヤカワ文庫についても、発売した時点で購入しなければすぐに絶版になって二度と手に入らなくなるくらいに割り切っておくべきなのかもしれませんね。

分析に用いた原データもありますが、ファイルサイズが大きい(238KB)のでご注意ください。

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