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06/02/2002
アプ・プンチャウがインカ族の祖先だとすると、その時代は西暦1200年頃になります。"The Urth of the New Sun" の Appendix によると、<共和国>の冬の星座がアプ・プンチャウの時代には春の夜空に見えるとあります。これは地球の自転軸の首振り運動(歳差運動)によるものと思われます。歳差運動の周期は約26,000年なので、アプ・プンチャウの時代とセヴェリアンの時代は最低20,000年、もしくはそれに26,000年の倍数を足した年数隔たっていることになります。
現代の事物がセヴェリアンの時代に影響を与えている例の一つ目は、ウルタン師の図書館に向かう途中にセヴェリアンが出会ったルデジンドが清掃している古い絵(これはどうもノーマン・ロックウェルのアポロ月面着陸の絵を意図しているようです)です。
彼が清掃している絵は、荒れ果てた風景の中に立っている鎧兜姿の人物だった。武器は持っていなかったが、奇妙なこわばった旗のついた旗竿を持っていた。この人物の兜の面頬は全体が黄金製で、目の細孔も呼吸孔もなく、そのぴかぴか輝く表面には、死のような砂漠の風景が映っているばかりで、それ以外には何も見えなかった。(中略)
わたしはやっといった。「それは月かなあ?もっと肥沃なところだと聞いていたが」
「そう、今はそうだ。これが描かれたのは、灌漑をする前だったのだ。ほら、灰褐色だろう?当時は、月を見上げると、こう見えたのさ。今のように緑ではない」--「拷問者の影」第5章
別の例は、ネッソスの植物園の<ジャングルの園>でセヴェリアンとアギアが出会うイサンゴマ、ロベール、マリーの三人です。彼らの会話の内容から、おそらく20世紀初頭の南アフリカが舞台のようです。
セヴェリアンの時代からははるか昔、ウールスの人々は強大な力を持って宇宙を航行し、多くの星々を支配していました。「茶色の本」の中にある「<蛙>と呼ばれた少年の物語」は、この星間帝国の建国神話のようにも読めます。しかしその過程において人々は<野性的な側面>をなくしてしまいました。人類が創りだした機械の知性は、逆に人類から受継いだ<野性的な側面>を大事にし、ついにはそれを人類に返すことによって、星間帝国を崩壊せしめました。
「あなたは次の顛末を知っているにちがいないわ。古代の種族がどのようにして星々に到達したか。そして、そうするために、彼らがどのようにして自分自身の野性的な側面のすべてを売り飛ばしたか。そしてその結果、もはや青ざめた風の味に関心を持たず、愛欲に関心を持たず、新しい歌を作らず、古い歌を歌わず、時間の底の雨の森から自分たちが持ちだしてきたと信じる――事実、彼らがそれらのものをもたらしたと、叔父はいうんだけれど――他の動物的なものに関心を抱かないようになったか。また、あなたは次のことを知っている。いや、知っているはずよ。人間がそれらを売り渡した相手――それは人間が自分の手で創りだしたものだったけれど――は心の中で人間を憎んだ。そして、創った人間には思いもよらないことだけど、彼らには本当に心があったのよ。とにかく、彼らは自分たちの創り手を滅ぼそうと決心したの。そして、ずっと昔、人間が無数の太陽に広がっていった時に、彼らのところに残していったすべてを返還することによって、その復讐をなし遂げたの」--「警士の剣」第6章
人類の星間帝国は、強大であったが故に、悲惨な戦争を星々の間にもたらしました。機械の知性による星間帝国の崩壊は、星々を悲惨な戦争状態から救うためであったのかもしれません。また神殿奴隷ら、より高次の存在の介入があったとも考えられます。
「人類がふたたび星々にいくことを、きみはまだ望んでいるのではないか?」
わたしはヴォダルスが森の中でいったことを思い出した。「星々の間を航行し、銀河から銀河へ跳躍する、太陽の娘たちの主人であるウールスの人々」
「かつては、そうだった・・・・・・そして、彼らはウールスのむかしの戦争のすべてをもたらし、また、若い太陽たちの間で、新しい戦争に火をつけた」--「独裁者の城塞」第25章
いったんは人類が捨て去った<野性的な側面>を人類にもたらし、それにより人類の活力を再生させるため、機械の知性がとった手段は魔術的なものでした。<野性的なもの>と古代の科学技術はいずれも魔法的な衣装を身にまとい、またアクアストルを造りだして、人々がより<野性的>に生きる助けとしました。
「でも、帝国が崩壊してしまっても、世界が死滅するには長い時間がかかったわ。機械たちは、最初、人間に返そうとしたものがふたたび拒絶されることのないように、野外劇や魔術幻灯を考案して、人間がそれを見て運命や復讐や目に見えない世界のことを考えるように仕向けたの。その後で、男や女の一人一人に顧問として、他人の目には見えない伴侶を与えたのよ。ずっと昔に子供たちが持っていたような伴侶をね。(中略)
最後の機械が冷たくなり、動かなくなると、人類が捨てた禁断の知識を機械から教わっていた人々は、それぞれ心に恐怖を感じて、みんなばらばらに分かれていったの。なぜなら、自分たちがいずれは死すべき生物であり、大部分の者がもう若くはないと自覚していたから。やがて彼らはそれぞれ――こうするのは自分だけだと思いながら――長年にわたって耳を傾け、機械から学んできた、野性的な物事についての隠された知識を全部記録しはじめたのよ」--「警士の剣」第6章
やがて隠された知識は一ヶ所にまとめられ、それは後にウルタン師の管理する図書館となりました。第二の星間帝国の建設を目論み、後にはこの図書館の建造を命じた独裁者とはテュポーンのことだと思われます。
「やがて、ある独裁者が(当時はまだ独裁者とは呼ばれていなかったけれど)最初の帝国によって行使されていた支配力を回復したいという望みを抱き、部下にそれらを収集させたの。(中略)
夜が明けると、彼は命令を発して、松明に点火するのを禁じ、巨大な地下収蔵庫を建設させ、白衣の男たちが集めた書物や巻物を収めさせたの。なぜなら、彼の計画するその新帝国が万一失敗に終わったら、彼はその収蔵庫に隠退して、古代人を真似て捨てることにきめた世界に、入ろうと思ったからなの」--「警士の剣」第6章
はるか昔、おそらくはアジアにあった国が海底に沈みました。<絶対の家>の<控えの間>の囚人たちの伝説上の祖先のキム・リー・スン(Kim Lee Soong)は、この場所の出身だったようです。この事件は、あるいは<古い太陽>へのブラックホールの注入と関連するのかもしれません。またジョナスがウールスを出発したのはこの国がまだ存在したころのことだと思われます。
「初代の囚人、つまり、彼らが数えられるかぎりの最も古い祖先の名を、尋ねた。それはキムリースンだった・・・・・・きみはこの名前を聞いたことがあるか?(中略)
キム・リー・スンなら、わたしが・・・・・・子供の・・・・・・頃には、非常にありふれた名前だったかもしれない。現在は海底に沈んでしまった場所では、ありふれた名前だったかもね。セヴェリアン、きみはわたしの船の名前を聞いたことがあるかね?≪幸運の雲≫というのだが」--「調停者の鉤爪」第15章
ウールスの世界の<古い太陽>が衰え、人類がエネルギーと資源の欠乏から滅びへの道を辿っている直接の原因は、太陽の中心にあるブラックホールが原因です。
しかし、あなたでさえも、癌が古い太陽の心臓を蝕んでいることはご存じです。その中心では、物質がみずからの上に落ちこみ、まるで、底なしの穴があって、上端がそれを取り巻いているようだといいます。--「調停者の鉤爪」第24章
ジョナスの語る物語に出てくる、強大なウールスの君主たちを怯えさせた「黒い豆」が、まさに<古い太陽>の中心に置かれたブラックホールをあらわしているのではないでしょうか。
「しかし、他の人々は星々の間を往復する定期船に乗って出かけていき、財宝や知識を持って戻ってきた。やがて、彼らに混じって一人の女が帰ってきたが、その女は一握りの豆しか手に入れてこなかった。(中略)
――彼女はその豆を人間の君主たちに見せて、自分に従わなければ、これを海に投げこんで、この世を終わりにしてしまうぞといった。彼らは彼女を捕え、八つ裂きにしてしまった。彼らはわれわれの独裁者より百倍も完全な支配をしていたからだ」(中略)
ドルカスは私の腕を握る手に力を加えて、尋ねた。「なぜ、彼らはそう怯えたの?」--「拷問者の影」第35章
セヴェリアンの時代から約千年前の支配者テュポーンは、古代の星間帝国の再現を夢見ました。当時はまだウールスの人々に星間航行の技術とエネルギーが残っていたのです。しかし、太陽のブラックホール化に伴う大混乱の中で、宇宙航行をおこなう力は失われ、タイミングを逸したテュポーンは人工冬眠に入ります。
「前にもいったように、わたしは多くの世界の独裁者だった。ふたたび独裁者になるつもりだ。今度はもっと多くの世界のな。その、もっとも古い世界を、わたしは首都にした。これが間違いだった。なぜなら、災害が起こった時に、長く踏み留まりすぎたからだ。逃げようと思った時には、逃げ道はなくなっていた――星々に到達できる船の操縦を任せていた者たちが、それらに乗って逃げてしまったからだ。そして、わたしはこの山に篭城することになった」--「警士の剣」第26章
テュポーンが人工冬眠に入る前、<調停者>と呼ばれる人物があらわれます。このエピソードについては、"The Urth of the New Sun" で語られます。
「また大混乱の時期でもあった。天文学者たちは、太陽の活動がゆっくりと衰えるだろうといっていた。実際には、その変化はあまりゆっくりで、一人間の生涯には感知しえないほどだともいった。ところが、それが間違っていたのだ。世界の温度は数年のうちに千分の二ほどの割合で低下し、それから安定した。作物は枯れ、飢餓と暴動が発生した。わたしはその時、立ち去ればよかったのだ。(中略)
また、その頃、奇跡を起こす人物が出現していた。こういう人民の中には、そのような者がよく現われるのだ。彼は実際にはごたごたを起こす人物ではなかったが、大臣の何人かは、危険だといった。わたしは治療が完了するまでここに引きこもっていたのだが、病気や奇形が彼から逃げ出すというので、ここに連れてくるように命じた」
「<調停者>ですね」--「警士の剣」第25章
テュポーンの後、イマールに始まる<独裁者>の時代が約千年続きます。独裁者たちは、周囲の人間、とりわけ高貴人たちには不合理な圧制と見える統治をおこないながら、実際にはイナイア老らの神殿奴隷と協力し、ウールスに<新しい太陽>をもたらして、人類にふたたび栄光をもたらすために長期計画を立てます。かつての星間帝国の栄光を求めるのではなく、人類をより高次の存在に進化させて宇宙と和解させるのが目的です。
セヴェリアンの時代からおそらく数百年前、ウールスに帰ってきたジョナスの宇宙船が墜落しました。おそらく星間帝国の崩壊前後に出航したジョナスは、機械の身体を持っていました。
「われわれは墜落したんだ。あまり長い年月が経っていたので、帰還した時には、ウールス上に港がなくなっていた。船着場がなかったのさ。墜落の後、わたしの手は取れ、顔がなくなっていた。同僚の船員たちができるだけ修理してくれた。だが、もう部品がなかった。生物学的材料しかなかったんだ」--「調停者の鉤爪」第16章
自分自身が生きたすべての瞬間の絶対記憶を生まれ持ち、さらにはアルザボの薬により歴代のすべての独裁者の記憶をあわせもつセヴェリアンは、やがて<新しい太陽>を招来するためにイエソドに旅立つことになります。この物語は "The Urth of the New Sun" で語られます。
緑色人はセヴェリアンが勝利して<新しい太陽>がやってきたものです。緑色人は、体内に葉緑素を持つことにより、<新しい太陽>のエネルギーを存分に利用することができるのです。
「だが太陽がなければ困るだろう」
「そうだ」緑色の男はいった。「だが、ここには充分にない。わたしの時代には昼間はもっと明るいのだ」
この簡潔な言葉を聞いて、わたしはあの<城塞>の<壊れた中庭>の屋根のない礼拝堂を初めて見た時以来、初めて感じたような興奮を味わった。「では、予言の通り<新しい太陽>がくるのだな」わたしはいった。「そして実際にウールスに第二の生命があるのだな――もし、きみのいうことが本当だとすると」--「調停者の鉤爪」第3章
アッシュ師は、緑色人とは別の未来――ウールスに<新しい太陽>が訪れず、大地が氷で覆われ、人類が退化人の力により氷から逃れて別の世界に移住した未来――からやってきました。
「きみの見ているのが最後の氷河作用だ。太陽の表面活動は今は鈍い。まもなく、それは熱をもって明るくなるだろう。しかし太陽そのものは縮小し、それに属する諸世界へのエネルギーの供給は減ってしまう。最後には、だれかがやってきて、この氷の上に立てば、太陽はただの明るい星にしか見えなくなるだろう。その人が立つのは、きみの見ている氷ではなく、この世界の大気が凍ったものだ。だから、非常に長い間残るだろう。おそらく、宇宙の日暮れまで」--「独裁者の城塞」第17章